三角形の面積を求める便利な公式の1つに「ヘロンの公式」があります。
しかし、このヘロンの公式は教科書でも「研究」として扱われる程度であまりメジャーではありません。
本記事では、「ヘロンの公式の使い方とその証明」について解説していきます。
さらに、
・「ヘロンの公式を使わないケースとの比較」
・「中学生の知識で解ける問題にヘロンの公式を使ったらとうなるか」
についてもご紹介していきます。
ヘロンの公式とは
ヘロンの公式は、三角形の面積を求めるための公式です。
3辺の長さが\(\; a,\; b,\; c\; \) である三角形ABCの面積を\(\; S\; \)は
\[ S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}\]
ただし\(\; s=\displaystyle{\frac{a+b+c}{2}}\; \) である
ヘロンの公式は「三角形の3辺が分かると、そこから面積が求まる」というすごい公式なのです!
三角形の角度や高さが分からなくても、面積が求まる夢のような公式です。
ヘロンの公式の使い方
では、ヘロンの公式の使い方をご紹介します。
問題 \( \; a=7,\; b=6,\; c=5\; \) である△\( \mbox{ABC}\) の面積を求めよ.
まず、3辺の長さの和を2で割った値\( s \) を求めます。
\[ s=\frac{a+b+c}{2}=\frac{7+6+5}{2}=9 \]
この値と\( \; a,\; b,\; c \; \) の値をヘロンの公式に代入します。
\[ S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}\]
\begin{align}
S&\sqrt{9\cdot (9-7)(9-6)(9-5)}\\
&=\sqrt{9\cdot 2 \cdot 3 \cdot 4}\\
&=6\sqrt{6}\cdots (答)
\end{align}
このように,三角形の3辺の長さから簡単に面積を求めることができました!
ヘロンの公式を使わないケースとの比較
ここでは比較のために、先ほどの問題をヘロンの公式を使わないで求めてみます。
教科書で解説されている方法です(重要です)。
問題 \( \; a=7,\; b=6,\; c=5\; \) である△\( \mbox{ABC}\) の面積を求めよ.
三角形の3辺から面積を求める方法は次の3ステップで行います。
- \( \; \cos A \; \) の値を求める
(\( \; \cos A=\displaystyle{\frac{b^2+c^2-a^2}{2bc}}\; \) を使う) - \( \; \sin A \; \) の値を求める
(\( \; \sin^2 A+\cos ^2 A=1\; \) を使う) - 面積\( \; S \; \) を求める
(\( \; S=\displaystyle{\frac{1}{2}bc\sin A }\; \) を使う)
では順番に求めていきましょう。
<ステップ①>
余弦定理より
\begin{align}
\cos A&=\frac{b^2+c^2-a^2}{2bc}\\
&=\frac{6^2+5^2-7^2}{2\cdot 6\cdot 5}\\
&=\frac{12}{60}\\
&=\frac{1}{5}
\end{align}
<ステップ②>
\( \cos A=\displaystyle{\frac{1}{5}} \) を\( \; \sin^2 A+\cos ^2 A=1\; \) に代入して
\begin{align}
&\sin^2 A+\left( \frac{1}{5} \right) ^2 =1\\
&\sin^2 A+\frac{1}{25}=1
\end{align}
よって
\begin{align}
\sin^2 A&=1-\frac{1}{25}\\
&=\frac{24}{25}
\end{align}
\( \sin A >0 \) であるから
\[ \sin A=\frac{2\sqrt{6}}{5} \]
<ステップ③>
面積公式より
\begin{align}
S&=\frac{1}{2}\; b\; c\; \sin A \\
&=\frac{1}{2}\cdot 6\cdot 5\cdot \frac{2\sqrt{6}}{5}\\
&=6\sqrt{6}\cdots (答)
\end{align}
このように導くことができました!
面積公式\( \; S=\displaystyle{\frac{1}{2}}bc\sin A \;\) を使う際に\( \; \sin A \; \) の値が必要なのですが、
\( \; \sin A \; \) は3辺の長さから直接求めることができないので、まずは\( \; \cos A \; \)を求めるのです。
慣れるまでは大変に感じると思います。
比較すると、ヘロンの公式の威力がよく分かりますね。
〔注意〕\( \; a,\; b,\; c\; \) のいずれかが根号を含む数である場合などは、逆にヘロンの公式は複雑になります。
中学数学の知識で解ける問題にヘロンの公式を使ったらとうなるか
上の問題の場合は高校で習う三角比を用いて解きました。
ここでは、中学数学の知識でも解ける問題について、ヘロンの公式を使った場合と使わない場合で比較してみます。
問題 \( \; a=6,\; b=7,\; c=7\; \) である二等辺三角形\( \mbox{ABC}\) の面積を求めよ.
ヘロンの公式を使った場合
使い方は先ほどと同様です。
まず、\( s \) の値を求めます。
\[ s=\frac{a+b+c}{2}=\frac{6+7+7}{2}=10 \]
この値と\( \; a,\; b,\; c \; \) の値をヘロンの公式のに代入します。
\[ S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}\]
\begin{align}
S&\sqrt{10\cdot (10-6)(10-7)(10-7)}\\
&=\sqrt{10\cdot 4 \cdot 3 \cdot 3}\\
&=6\sqrt{10}\cdots (答)
\end{align}
今回も簡単に答えを導くことができました。
ヘロンの公式を使わない場合
この問題は三角比を使わなくても解くことが可能です。
まず、頂点\( \mbox{A}\) から辺\( \mbox{BC}\) に垂線を下ろし、辺\( \mbox{BC}\) との交点を\( \mbox{H}\) とします。
すると\( \mbox{BH}=3\) となるので,△\( \mbox{ABH}\) において三平方の定理を用いて
\[ \mbox{AH}^2+3^2=7^2 \]
これより
\begin{align}
\mbox{AH}^2&=49-9=40
\end{align}
\( \mbox{AH}>0 \)より
\[ \mbox{AH}=\sqrt{40}=2\sqrt{10} \]
これで△\( \mbox{ABC}\) の高さが求まりました。△\( \mbox{ABC} \) の面積\( S\) は
\begin{align}
S&=\frac{1}{2}\cdot \mbox{BC} \cdot \mbox{AH}\\
&=\frac{1}{2}\cdot 6 \cdot 2\sqrt{10} \\
&=6\sqrt{10}\cdots (答)
\end{align}
このように求めることができました。
中学数学の範囲で解けますが、三平方の定理を使うので少し面倒ですね。
中学生がヘロンの公式が使えるとだいぶ楽になるケースが結構あると思います。
ヘロンの公式の証明
では最後に、ヘロンの公式を証明してみます。
中学数学の範囲での証明も可能ですが、やや複雑になるので、今回は三角比を使った証明方法をしておきます。
3辺の長さが\(\; a,\; b,\; c\; \) である三角形ABCの面積を\(\; S\; \)とすると,
\[ S=\frac{1}{2}bc\sin A \]
より
\begin{align}
S^2&=\frac{1}{4}b^2c^2\sin ^2 A\\
&=\frac{1}{4}b^2c^2(1-\cos ^2 A) \quad (\sin ^2 A+\cos ^2 A=1 より)\\
&=\frac{1}{4}b^2c^2(1+\cos A)(1-\cos A)\\
&=\frac{1}{4}b^2c^2\left( 1+\frac{b^2+c^2-a^2}{2bc} \right)
\left( 1-\frac{b^2+c^2-a^2}{2bc} \right) \qquad \mbox{(余弦定理より)}\\
&=\frac{1}{4}b^2c^2\cdot \frac{2bc+b^2+c^2-a^2}{2bc}\cdot \frac{2bc-b^2-c^2+a^2}{2bc}\\
&=\frac{1}{4}b^2c^2\cdot \frac{(b^2+2bc+c^2)-a^2}{2bc} \cdot \frac{a^2-(b^2-2bc+c^2)}{2bc}\\
&=\frac{1}{4}b^2c^2\cdot \frac{(b+c)^2-a^2}{2bc} \cdot \frac{a^2-(b-c)^2}{2bc}\\
&=\frac{\{ (b+c)+a \} \{ (b+c)-a \} \{ a+(b-c)\} \{ a-(b-c)\} }{16}\\
&=\frac{(a+b+c)(-a+b+c)(a+b-c)(a-b+c)}{16}\\
&=\frac{a+b+c}{2}\cdot \frac{-a+b+c}{2}\cdot \frac{a+b-c}{2}\cdot \frac{a-b+c}{2}\\
&=\frac{a+b+c}{2}\left( \frac{a+b+c}{2}-\frac{2a}{2}\right) \left( \frac{a+b+c}{2}-\frac{2b}{2}\right) \left( \frac{a+b+c}{2}-\frac{2c}{2}\right) \\
&=\frac{a+b+c}{2}\left( \frac{a+b+c}{2}-a\right) \left( \frac{a+b+c}{2}-b\right) \left( \frac{a+b+c}{2}-c\right)
\end{align}
ここで\( s=\displaystyle{\frac{a+b+c}{2}} \) とおくと
\[ S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)} \]
となり,ヘロンの公式を証明することができました。
式変形が長くて大変でしたね。
お疲れさまでした。
まとめ
今回は3辺の長さから三角形の面積を求める「ヘロンの公式」について解説しました。
ヘロンの公式は3辺の長さから面積を求められる便利な公式です。
証明は長くて大変ですが、式自体はシンプルで覚えやすいので、比較的使いやすい公式だと思います。
教科書では研究として扱われている公式ですが、使えそうな場面では積極的に使ってもいいのではないかと思っています。
今回は以上です。最後までお読みいただきありがとうございました。