書評

【書評】名門校の「人生を学ぶ」授業(おおたとしまさ)受験勉強より大事な教え

名門校と呼ばれている進学校ほど、実は受験勉強以外により大きな時間を割いています。しかもそれは、一見、大学受験には関係なさそうな授業。進学校ではどんな授業が、どんな目的のために行われているのでしょうか?

本書を読むとその概要が見えてきます。

進学校では受験勉強ばかりやっているというイメージは思い込み?

私は地方の公立中学、公立高校出身です。名門校とは全く縁のない人生を送ってきました。

私が持っている名門校のイメージは以下の通りです。

「入学してからは先取り学習。中学3年間の内容を中学1年生ぐらいで終えるスピードで授業を行い、高校では1年間あるいは2年間、みっちり受験勉強にあてる。高3では予備校のような授業が行われている。生徒は毎日受験勉強漬けの生活を送っている。」

しかし、実態はむしろ逆でした。名門校と呼ばれる進学校ほど、受験勉強以外の教育により多くの時間をさいていたのです。受験勉強だけで学校生活を終えてしまうのはもったいないというスタンスがどの名門校にも共通して存在していたのです。

しかも、流行りの「プログラミング授業」や「プレゼンテーション授業」、「英会話」などに力を入れているというわけでもないのです。ビジネスマン養成のための教育でなく、中高生にしかできないことをすべきというスタンスが共通しています。

取り組んでいる内容は様々ですが、どの学校も人間としての土台を築いていくことに一番力を入れ、どんな時代でも生き抜くことのできる生徒の育成を第一に考えているんだという印象を受けました。

印象に残ったのは以下の3つの学校の授業です。それでは順番に紹介していきます。

1.オリガミクス入門「ギリシャ3大作図不可能問題を折り紙で解く」灘中学校・高等学校

「オリガミクス入門」は土曜日に開講される特別講座「土曜講座」の人気授業です。各自が折り紙を持参し、16ページほどのテキストにある課題を仲間と相談しながら進めていきます。

この講座は先生が一方的に授業をするものでなく、グループで話し合いながら好きな課題に取り組みます。最初の1時間はずっと課題に取り組む時間です。生徒は話し合いながらガヤガヤとみんなで課題を進めていきます。

課題はハイレベルですが、生徒はそれに十二分に答えてくれるそうです。さすが名門校!しかも楽しみながら!

「数学は、問題を解いてテストで点を取ってステージアップするだけのものじゃないという原点に立ち返って楽しむというのが一番の狙いです。」

この言葉が心に響きました!

オリガミクスは書籍もいくつか出ています。私も何冊か読んでみようと思います。

講座の進め方も相談しながらワイワイガヤガヤ。折り紙を用いることで、教科書や問題集とは別の視点で数学を学ぶことができる。そして、数学に対する幅広い見方を身に付けることができる。

まさに一石三鳥ですね!

2.レゴブロックで数学の原理原則に迫る 聖光学院中学校高等学校

普段数学を教えている立場上、数学に関連する授業は目に留まります(笑)。

レゴブロックを使って「すだれ算」の意味を理解する

「すだれ算」とは、最小公倍数や最大公約数を求めるときなどに用いる計算法です。いくつかの数を横にならべ、共通して割り切ることのできる数などでどんどん割っていく方法です。

授業はまず、色分けされたレゴブロックを使用しながら、約数の概念の理解からスターとします。そして、公約数や公倍数のブロックでの表し方から最大公約数、最小公倍数を求めていきます。最小公倍数を求める際に「すだれ算」を使うことが多いのですが、この原理を理解している生徒はほとんどいないのではないかと思います。

これがレゴブロックを使うことで視覚的に理解できるようになるから不思議です!しかも、作業や試行錯誤を通して身に付けたことはずっと忘れないで記憶に残っている可能性も高いはずです。

概念だけで説明しようとすると非常に難しいことを、ブロックを使ってビジュアル化する。すると視覚にも訴え理解が進む。

これは授業でも使える!と感じました。ややレベルは高いですが、数学の本質的な部分を理解する助けになるとても優れた方法だと感じました。

私語を推奨する ワイワイガヤガヤが大事!

先ほど挙げた「オリガミクス」講座と同様、ここで出てきたキーワードも「グループワーク」です。先生からの解説はほとんどないそうです。

「この授業は私語を推奨しています。みんなでワイワイガヤガヤ相談しながら進める授業なので、仲のいい人とグループを作ってくれて結構です」

「・・・<研究課題>という課題については、解答は渡しません。解説もしません。わかるまで自分で考えてください。ただし一人で考えていてもらちが明かない課題が多いですから、積極的に友達と相談してください。数学の知識を増やすのではなくて、みんなで考えましょうという授業です。・・・」

知的好奇心を最大限に引き出すヒントがまさにこの言葉に含まれています。そうなるとどんな題材を与えるかがものすごく重要になりますね。

大事なのは速く問題に正解することではなく、じっくり考え続ける力を養うこと。だから基本問題以外の解答は渡さない。

とても大切なことを学べました!

3.真夜中に標高1900mの山に登る大菩薩峠越え 巣鴨中学校・高等学校

巣鴨中学校・高等学校ではゴールデンウィーク中に毎年恒例の「大菩薩峠越え強歩大会」が実施されています。学年によってルートの距離は異なりますが、高3生は約34.5kもの山道を踏破します。

しかもそれが真夜中に行われているというのですから驚きです!

中2生でも以下のようなものすごいスケジュールです。

21時前に上野駅で軽めの夕食。34台のバスで出発。22時には消灯で私語は禁止。スタート地点に到達するのが深夜2時。仮眠をとって深夜3時にスタート。ゴールの目安は11時まで。約8時間の道のり。

壮絶です!

生徒たちは寒くて真っ暗な道のりを、頭につけたヘッドライトを頼りに、一歩一歩進んでいきます。

壮絶な課題を乗り越えた生徒たちに向けて、校長先生がかけた言葉は印象的でした。

「・・・それにしても、よくやった。みんなに伝えたいのはその一言。みてごらん、あそこに山頂が見えるよね。君たちは山の向こう側からあそこまで登って、一歩一歩、ここまで歩いてきたんです。こんな気の遠くなるような道のりも、一歩一歩を重ねることで踏破できるんだ。君たちは今日、そのことを実感しただろう。」

特別なことをやり遂げたことが、生徒たちにとって大きな自信になることは間違いありません。

この行事にはボランティアスタッフが60名参加します。学校には50年以上にわたって蓄積されたノウハウがあります。伝統の力のエネルギーを強く感じました。

こんな授業を自分の子供達にも受けさせてやりたいです。

まとめ

今回は私にとって印象に残った3つの学校の授業の概要を紹介しました。

これらの学校以外にも興味深い授業内容がたくさん紹介されています。

「なわとび検定」「大運動会」「演劇」「バイオリン」「園芸」「上半身裸のラジオ体操」「岩を削り続ける理科実験」・・・

様々なバラエティに富んだ授業内容から一番感じたこと、それは、

たくさんの「寄り道」や「あそび」や「ムダ」を大切にすること。そしてその「寄り道」「あそび」「ムダ」こそが、生徒たちの知的好奇心を刺激するということ。知的好奇心を刺激された生徒たちは自ら学びの質を深めていくはずです。

本書にある授業の成果は即効性はないのかもしれません。しかし、それぞれの生徒の潜在意識の中で化学反応が起こり、いつかどこかで大きな力となっていくはずだと感じました。

名門校の「人生を学ぶ」授業。オススメです!

 

 

 

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