この記事では、数学検定1級を所持している管理人が、コーシーシュワルツの不等式の使い方について分かりやすく解説していきます。
\(n=2 \) の場合について、3パターンの使い方をご紹介します。やさしい順に並べてありますので、少しずつステップアップしていきましょう!
レベル3で扱うのは1995年東京大学理系の問題ですが、恐れることはありません。コーシ―シュワルツの不等式を使うと、驚くほど簡単に問題が解けますよ。
答えを出すまでの考え方についても紹介しましたので、これを機にコーシーシュワルツの不等式を使いこなせるように頑張ってみませんか?
\begin{align*}
(a^2\!+\!b^2)(x^2\!+\!y^2)≧(ax\!+\!by)^2
%&(a^2+b^2+c^2)(x^2+y^2+z^2)\geq(ax+by+cz)^2
\end{align*}等号は\( \displaystyle{\frac{x}{a}=\frac{y}{b}}\) のとき成立
コーシーシュワルツの覚え方・証明の仕方については次の記事も参考にしてみてください。
【コーシー・シュワルツの不等式】を4通りの方法で証明「内積を使って覚え、判別式の証明で感動を味わう」
コーシーシュワルツの不等式については、次の本が詳しいです。
それでは見ていきましょう。
レベル1
\[ x^2+y^2=1\]のとき\(2x+y\)の最大値と最小値を求めなさい
この問題はコーシ―シュワルツの不等式を使わなくても簡単に解けますが、はじめてコーシーシュワルツ不等式の使い方を学ぶには最適です。
\begin{align*}
(a^2\!+\!b^2)(x^2\!+\!y^2)≧(ax\!+\!by)^2
%&(a^2+b^2+c^2)(x^2+y^2+z^2)\geq(ax+by+cz)^2
\end{align*}等号は\( \displaystyle{\frac{x}{a}=\frac{y}{b}}\) のとき成立
なぜコーシーシュワルツの不等式を使おうと考えたのか?
ポイント1
\[ x^2+y^2=1 \]
の左辺が、コーシ―シュワルツの不等式の左辺にもある
ポイント2
\[ 2x+y=2\cdot x +1\cdot y \]
と見ると、コーシ―シュワルツの不等式の右辺の形と同じである
解き方
コーシ―シュワルツの不等式において\( a=2,\; b=1 \)として
\begin{align*}
(2^2+1^2)(x^2+y^2)≧(2\cdot x+1\cdot y)^2
\end{align*}
\( x^2+y^2=1\) より
\begin{align*}
5≧(2x+y)^2 \\
\end{align*}
ゆえに
\begin{align*}
-\sqrt{5}≦2x+y≦\sqrt{5} \\
\end{align*}
となります。
これより、最大値は\(\sqrt{5}\) ,最小値は\(\sqrt{5}\) です。
等号は
\begin{align*}
\frac{x}{2}=\frac{y}{1}
\end{align*}
より\( x=2y \) のとき成り立ちます。
\( x^2+y^2=1 \) であることから、
\[ x=\pm \frac{2}{\sqrt{5}},y=\pm \frac{1}{\sqrt{5}} \]
のとき等号が成立します。
レベル2
\( x>0,\; y>0,\; x+4y=1\)
とするとき,\(\displaystyle{\frac{1}{x}+\frac{1}{y}}\) の最小値を求めよ。
この問題は一見すると、コーシ―シュワルツの不等式との関連は気づかないかもしれません。
なぜコーシーシュワルツの不等式を使おうと考えたのか?
問題の式をよく見てみましょう。
\( x+4y=1\) の左辺と
\[ \frac{1}{x}+\frac{1}{y}\]
のそれぞれの項は,文字の部分\( x,y\) が逆数の関係になっています!
イメージですが、次のようにすると\(x\) と\( y \) を消去することができますよね。
\begin{align*}
x\cdot \frac{1}{x}+4y\cdot \frac{1}{y}&=1+4\\
&=5
\end{align*}
この左辺
\begin{align*}
x\cdot \frac{1}{x}+4y\cdot \frac{1}{y}
\end{align*}
の形はコーシ―シュワルツの不等式の右辺と同じ形です。
\begin{align*}
(a^2\!+\!b^2)(x^2\!+\!y^2)≧(ax\!+\!by)^2
%&(a^2+b^2+c^2)(x^2+y^2+z^2)\geq(ax+by+cz)^2
\end{align*}等号は\( \displaystyle{\frac{x}{a}=\frac{y}{b}}\) のとき成立
このことから「コーシーシュワルツの不等式を利用してみよう」と考えるわけです。
コーシ―シュワルツの不等式の左辺は2乗の形ですので、実際には、次のように調整します。
解き方
コーシーシュワルツの不等式より
\begin{align*}
\{ (\sqrt{x})^2+(2\sqrt{y})^2\}
\{ (\frac{1}{\sqrt{x}})^2+(\frac{1}{\sqrt{y}})^2 \} \\
≧
\left(\sqrt{x}\cdot \frac{1}{\sqrt{x}}+2\sqrt{y}\cdot \frac{1}{\sqrt{y}}\right)^2
\end{align*}
整理すると
\[ (x+4y)\left(\frac{1}{x}+\frac{1}{y}\right)≧3^2 \]
\( x+4y=1\)より
\[ \frac{1}{x}+\frac{1}{y}≧9 \]
これより、最小値は9となります。
使い方がやや強引ですが、最初の式できてしまえばあとは簡単です!
続いて等号の成立条件を調べます。
\[ \frac{\frac{1}{\sqrt{x}}}{\sqrt{x}} =\frac{\frac{1}{\sqrt{y}}}{2\sqrt{y}} \]
\[ ⇔\frac{1}{x}=\frac{1}{2y} \]
\[ ⇔ x=2y \]
したがって\( x+4y=1\)より
\[ x=\frac{1}{3},\; y=\frac{1}{6} \]
で等号が成立します。
レベル3
【1995年 東大理系】
すべての正の実数\(x,\; y\) に対し
\[ \sqrt{x}+\sqrt{y}≦k\sqrt{2x+y} \]
が成り立つような,実数\( k\)の最小値を求めよ。
この問題をまともに解く場合、両辺を\( \sqrt{x} \) でわり,\( \displaystyle{\sqrt{\frac{y}{x}}}=t\)
とおいて\( t\) の2次不等式の形に持ち込みますが、やや面倒です。
それでは、どのようにしてコーシ―シュワルツの不等式を活用したらよいのでしょうか?
コーシーシュワルツの不等式使い方【頭の中】
まず、問題で与えられた不等式の左辺と右辺を反対にしてみます。
\[ k\sqrt{2x+y}≧\sqrt{x}+\sqrt{y}\]
この不等式の両辺は正なので2乗すると
\[ k^2(2x+y)≧(\sqrt{x}+\sqrt{y})^2\]
この式をコーシ―シュワルツの不等式と見比べます。
\begin{align*}
(a^2\!+\!b^2)(x^2\!+\!y^2)≧(ax\!+\!by)^2
%&(a^2+b^2+c^2)(x^2+y^2+z^2)\geq(ax+by+cz)^2
\end{align*}等号は\( \displaystyle{\frac{x}{a}=\frac{y}{b}}\) のとき成立
ここでちょっと試行錯誤をしてみましょう。
例えば、右辺のカッコ内の式を\( 1\cdot \sqrt{x}+1\cdot \sqrt{y}\)とみて、コーシ―シュワルツの不等式を適用すると
\begin{align*}
(1^2+1^2) \{ (\sqrt{x})^2+(\sqrt{y})^2 \} \\
≧( 1\cdot \sqrt{x}+1\cdot \sqrt{y})^2
\end{align*}
整理すると
\[ 2\underline{(x+y)}≧(\sqrt{x}+\sqrt{y})^2 \]
上手くいきません。実際にはアンダーラインの部分を\( 2x+y \) にしたいので、少し強引ですが次のように調整します。
解き方
コーシーシュワルツの不等式より
\begin{align*}
\left\{ \left(\frac{1}{\sqrt{2}}\right)^{\!\! 2}+1^2 \right\} \left\{ (\sqrt{2x})^2+(\sqrt{y})^2\right\} \\
≧\left( \frac{1}{\sqrt{2}}\cdot \!\sqrt{2x}+1\cdot \!\sqrt{y}\right)^2
\end{align*}
これより
\begin{align*}
\frac{3}{2} (2x+y)≧(\sqrt{x}+\sqrt{y})^2
\end{align*}
両辺を2分の1乗して
\begin{align*}
\sqrt{\frac{3}{2}} \sqrt{2x+y}≧\sqrt{x}+\sqrt{y}
\end{align*}
ゆえに
\begin{align*}
\frac{\sqrt{x}+\sqrt{y}}{\sqrt{2x+y}}≦ \frac{\sqrt{6}}{2}
\end{align*}
ここで、問題文で与えられた式を変形してみると
\begin{align*}
\frac{\sqrt{x}+\sqrt{y}}{\sqrt{2x+y}}≦ k
\end{align*}
ですので、最小値の候補は\( \displaystyle{\frac{\sqrt{6}}{2}} \) となります。
次に等号について調べます。
\begin{align*}
\frac{\sqrt{2x}}{\frac{1}{\sqrt{2}}}=\frac{\sqrt{y}}{1}
\end{align*}
より\( y=4x \)
つまり\( x:y=1:4\)のとき等号が成り立ちます。
これより\( k\) の最小値は\( \displaystyle{\frac{\sqrt{6}}{2}} \)で確定です。
コーシーシュワルツの不等式の使い方 まとめ
今回は\( n=2 \) の場合について、コーシ―シュワルツの不等式の使い方をご紹介しました。
コーシ―シュワルツの不等式が使えるのは主に次の場合です。
1.2乗の和\(x^2+y^2\)と一次式\( ax+by\) が与えられたとき
2.一次式\( ax+by\) と、\( \displaystyle{\frac{c}{x}+\frac{d}{y}}\) が与えられたとき
3.\( \sqrt{ax+by}\) と、\( \sqrt{cx}+\sqrt{dy} \)の形が与えられたとき
こんな複雑なポイントは覚えられない!という人は,次のことだけ覚えておきましょう。
最大最小問題が出たら、コーシーシュワルツの不等式が使えないか試してみる!
コーシ―シュワルツの不等式の活用は慣れないとやや使いにくいですが、うまく適用できれば驚くほど簡単に問題を解くことができます。
たくさん練習して、実際に使えるように頑張ってみましょう!
次の本には、コーシーシュワルツの不等式の使い方が詳しく説明されています。ややマニアックですがおすすめです。
同じシリーズに三角関数も出版されています。マニアにはたまらない本です。
コーシーシュワルツの覚え方・証明の仕方については、以下の記事も参考にしてみてください。
【コーシー・シュワルツの不等式】を4通りの方法で証明「内積を使って覚え、判別式の証明で感動を味わう」
最後までお読みいただきありがとうございました。