コーシー・シュワルツの不等式は、大学入試でもよく取り上げられる重要な不等式です。
今回は\( n=2 \) の場合のコーシー・シュワルツの不等式を、4通りの方法で証明をしていきます。
コーシーシュワルツの不等式の使い方については、以下の記事に詳しく解説しました。
コーシ―・シュワルツの不等式
\[
{\displaystyle(\sum_{i=1}^n a_i^2)}{\displaystyle(\sum_{i=1}^n b_i^2)}\geq{\displaystyle(\sum_{i=1}^n a_ib_i)^2} \]
コーシ―・シュワルツの不等式
(\( n=2 \) の場合)
\[
(a^2+b^2)(x^2+y^2)≧(ax+by)^2
%&(a^2+b^2+c^2)(x^2+y^2+z^2)\geq(ax+by+cz)^2
\]
しっかりと覚えて、入試で使いこなしたい不等式なのですが、この不等式、ちょっと覚えにくいですよね。
実は、コーシー・シュワルツの不等式の本質は内積と同じです。
したがって、内積を使ってこの不等式を導く方法を身につけることで、確実に覚えやすくなるはずです。
また、この不等式を2次方程式の判別式で証明する方法もあります。私が初めてこの証明方法を知ったときは感動しました!
とても興味深い証明方法です。
様々な導き方を身につけて数学の世界が広げていきましょう!
平方の形をつくる
基本的な不等式の証明方法です。
\begin{align*}
&(左辺)-(右辺)\\
&=(a^2+b^2)(x^2+y^2)-(ax+by)^2\\
&=(a^2x^2+a^2y^2+b^2x^2+b^2y^2)\\
& -(a^2x^2+2abxy+b^2y^2)\\
&=a^2y^2-2abxy+b^2x^2\\
&=(ay-bx)^2\\
&≧0
\end{align*}
等号は
\[ ay-bx=0\]
すなわち
\[ a:b=x:y\]
のとき成立します。
内積の利用
続いてベクトルの内積を使って、コーシー・シュワルツの不等式を導いてみます。
このイメージを持っておくと、コーシー・シュワルツの不等式を覚えやすくなると思います。
\( \overrightarrow{m}\neq \overrightarrow{0},\; \overrightarrow{n}\neq \overrightarrow{0}\) として、\( \overrightarrow{m}\) と\( \overrightarrow{n}\) のなす角を\( \theta \)とすると,内積の定義から
\begin{align*}
\overrightarrow{m}\cdot \overrightarrow{n}=| \overrightarrow{m} | | \overrightarrow{n} |\cos \theta
\end{align*}
この式の両辺を2乗して
\begin{align*}
(\overrightarrow{m}\cdot \overrightarrow{n})^2&=| \overrightarrow{m} | ^2| \overrightarrow{n} | ^2\cos^2 \theta
\end{align*}
\( 0≦\cos ^2 \theta ≦1\)だから
\begin{align*}
(\overrightarrow{m}\cdot \overrightarrow{n})^2≦| \overrightarrow{m} | ^2| \overrightarrow{n} | ^2
\end{align*}
2つのベクトルの内積の2乗は、それぞれのベクトルの大きさの2乗の積以下ということです。
左辺と右辺を反対にしておきます
\begin{align}
| \overrightarrow{m} | ^2| \overrightarrow{n} | ^2≧(\overrightarrow{m}\cdot \overrightarrow{n})^2 \cdots ①
\end{align}
ここで,\( \overrightarrow{m}=(a,\; b),\; \overrightarrow{n}=(x,\; y)\)とすると
\begin{align*}
(a^2+b^2)(x^2+y^2)≧(ax+by)^2
\end{align*}
が成り立ちます。
続いて、等号成立条件を調べます。
等号は①で\( \cos ^2 =1\) すなわち\( \cos \theta =\pm 1\) のときに成立します。
このとき\(\theta =0,\; \pi \)なので、\( \overrightarrow{m}/\!/\overrightarrow{n} \) となります。
したがって\( a:b=x:y\) です。
コーシ―シュワルツの不等式は内積の不等式と実質同じです。
2次方程式の判別式による証明
ややテクニカルですが、すばらしい証明方法です。
私は感動しました!
\( t\)を実数とすると,次の式が成り立ちます。この式は強引に作ります!
\begin{align*}
(at-x)^2+(bt-y)^2≧0 \cdots ②
\end{align*}
この式の左辺を展開して,\( t \) について整理すると
\begin{align*}
&(a^2+b^2)t^2-2(ax+by)t\\
& +(x^2+y^2) ≧0
\end{align*}
左辺を\( t \) についての2次式と見ると,判別式\( D \) は\( D ≦ 0 \) でなければなりません。
したがって
\begin{align*}
&\frac{D}{4}=\\
&(ax+by)^2-(a^2+b^2)(x^2+y^2)≦0
\end{align*}
これより
\begin{align*}
(a^2+b^2)(x^2+y^2)≧(ax+by)^2
\end{align*}
が成り立ちます。すごいですよね!
等号成立は②の左辺が0になるときなので
\begin{align*}
(at-x)^2=(bt-y)^2=0
\end{align*}
すなわち
\begin{align*}
x=at,\; y=bt
\end{align*}
つまり,\( a:b=x:y\)で等号が成立します。
この方法は非常にすぐれていて,一般的なコーシー・シュワルツの不等式
\[
{\displaystyle\left(\sum_{i=1}^n a_i^2\right)}{\displaystyle\left(\sum_{i=1}^n b_i^2\right)}\geq{\displaystyle\left(\sum_{i=1}^n a_ib_i\right)^2} \]
の証明にも威力を発揮します。ぜひ一度試してみてほしいと思います。
「数学ってすばらしい」と思える瞬間です!
ブラーマグプタの二平方恒等式の利用
ブラーマグプタの二平方恒等式は以下のような恒等式です。
\begin{align*}
&(a^2+b^2)(c^2+d^2)\\
&=(ac-bd)^2+(ad+bc)^2\\
&=(ac+bd)^2+(ad-bc)^2
\end{align*}
この式の証明は、簡単な計算でできるので省略しますが、上の式で\( b\) を\( -b\) に置き換えると、下の式が導かれますね。
ブラーマグプタの二平方恒等式を用いると
\begin{align*}
&(a^2+b^2)(c^2+d^2)\\
&=(ac-bd)^2+(ad+bc)^2\\
&\geq (ac+bd)^2\cdots ③
\end{align*}
となり,\(c \) を\( x \) に,\(d\) を\(y \) に置き換えると
\begin{align*}
(a^2+b^2)(x^2+y^2)≧(ax+by)^2
%&(a^2+b^2+c^2)(x^2+y^2+z^2)\geq(ax+by+cz)^2
\end{align*}
が導かれます。
等号は③で\( (ac-bd)^2=0 \) から、\( a:b=x:y\) のときに成立することがわかります。
ちなみにこの、 ブラーマグプタの二平方恒等式は「2つの平方数の和の積が二つの平方数の和」になることを示しています。美しい式ですね。
専門的には「2つの平方数の和全体の集合が、積に関して閉じている」という言い方をします。
\( ○^2+△^2\) の積
⇓
\( ( )^2+( )^2\)
というイメージです。
まとめ
今回は,\( n=2\) のコーシー・シュワルツの不等式について、4通りの方法で証明してみました。
複素数を用いた証明方法もありますが、説明がやや難しめなので、今回は割愛しました。
「内積」の方法をイメージできれば、コーシー・シュワルツの不等式はかなり覚えやすくなるはずです。
また「2次方程式の判別式」を用いる方法は、数学のすばらしさを感じさせてくれるものでした。この方法を考えた人は本当にすごい!
数学の良さや美しさを感じられる問題に出会えることは、この上ない喜びでもあります。
今回は証明方法についてでしたが、今後はコーシー・シュワルツの不等式の問題への適用方法についてもまとめてみたいと思っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。