・数学ってどんなところで役立つの?
・数学的に考えるってということ?
こんな疑問の答えてくれるのが本書『数学的に考える力をつける本』です。
数学の本質は、コトバにある。
これが本書の主張です。
著者はビジネス数学教育家であり、数字に強い人材、組織作りに取り組まれている深沢真太郎さん。
本記事では、私が本書を読んで学んだ3つの内容についてご紹介していきます。
数学コトバを取り入れることが人生において極めて重要
深沢さんが、企業研修や大学などの現場で痛切に感じていること。それは
「自分ではわかっているのに誰かに説明することができない人の多さ」
です。つまり、論理的に言葉を使って、物事の構造を把握し、論証し、第三者に分かりやすく説明する行為ができない人が多いのだそうです。
本書ではこの「構造把握・論証・説明」を飛躍的に上達させる方法として、「数学コトバ」を取り入れることが勧められています。
「数学コトバ」とは、数学を通じて使い方を学ぶことができる言葉のことで、具体的には以下のような数学でよく登場する言葉のことを指します。
「定義する」「しかし」「かつ」「または」「少なくとも」「仮に」「したがって」「すなわち」「たとえば」「なぜなら」「以上より」「明らかである」
接続詞が多いですね。
他にもたくさん紹介されています。
深沢さんの主張は、普段使っているコトバをこの数学コトバに変えることで「構造把握→論証→説明」が飛躍的にうまくなる、というものです。
<数学コトバを使うことで得られる効果>
①ものごとの構造を把握する能力が高まる(構造把握)
②矛盾することなく論証する技術が身につく(論証)
③分かりやすい説明ができるようになる(説明)
この3ステップを使えるかどうかが、あなたの人生においてきわめて重要です。
本書では、これらのメソッドが③→①→②の順に詳しく解説されています。
具体的な事例を参考にしながら「構造把握」「論証」「説明」について学ぶことができますよ。
数学コトバで分かりやすく簡潔な説明ができる
数学コトバを使うと、分かりやすく簡潔な説明ができるようになります。
本書では、分かりやすく伝えるためのポイントがいくつか紹介されています。
その中で私が特に注目したのは以下の3点です。
・短文で伝える
・少しだけ「間」をとって伝える
・いい話はいつも「定義」から始まる
順に見ていきましょう。
短文で伝える
「説明は短い方がいい。」
私が人に教えるときに心がけていることです。
楽しむ会話であれば、短いとつまらないでしょうが、ビジネスにおいてムダに長い話は人の時間を奪う行為です。
話が長くなってしまう人は、長く話した方が分かりやすくなると考えているのかもしれません。
あるいは、短く話すことが苦手なのかもしれませんね。
しかし、実際は逆です。
わかりやすく伝える人は、余計なことを言いません。
わかりやすく伝える人は、一文が短く、簡潔に要点を話します。
何かを伝えるときは短さが武器になるのです。
数学の証明でも短いほど美しい。だらだらと長い説明は伝わりません。
これからも短いことは重要だという意識を持つよう心がけていこうと思います。
少しだけ「間」をとって伝える
伝える内容が劇的にわかりやすくなるポイントの2つ目として、少しだけ「間」をとるということが挙げられます。
本書では、数学コトバの両脇に1秒の「間」をつくることが勧められています。
間の使い方の上手な方として、ジャーナリストの池上彰さん、小泉進次郎さんの例が紹介されていました。
お二人の間の取り方は参考になりますね。
マシンガンのように「間」が全くないしゃべり方は、いかにも頭の回転が速そうに感じますが、聞かされる方にとっては迷惑になることが多いです。
「間」も言葉の一つととらえ、自然な「間」のある、わかりやすい伝え方を目指したいものです。
いい話はいつも「定義」から始まる
数学に限ったことではありませんが、優れた教師は、授業の冒頭で今日の授業を定義します。
例えば「今日は三角形の面積を求める方法を勉強します」といった具合に、今日の授業がどこに向かうのかをまずはじめに定義しているのです。
授業開始の際に行われるこの行為は「方向づけ」であり、「目的地」がどこなのかを示す、重要なメッセージとなります。
定義を伝えると聞き手は安心します。
「今から話す内容のポイントは3つです」
と定義するだけで、聞き手は気持ちの準備もでき、話し手のメッセージを受け止めやすくなりますよね。
話をする前の「定義」をきちんと聞き手に伝えることは極めて重要です。
「何をどのくらいの時間話すのか」「どんなことに注意して聞けばいいのか」「メモは必要か」
話の本題に入っていく前のこのひと手間が、聞き手の「わかりやすかった」につながってくるのです。
数学コトバで「構造化→論証」の能力が高まる
数学の本質は「考える」という行為にあります。
この「考える」という行為は、「構造化」と「論証」に分けることができます。
例えば数学の問題が与えられたときのことを考えてみましょう。
まずは問題文の内容がどんな構造をしているのかを把握すると思います。
与えられた問題を解決するために、問題の前提となっていることをきちんと整理しておくのです。
この作業が「構造化」です。
前提が整理できたところで、問題を解いていきます。
数学で問題を解く作業は、矛盾しない正確な論証が必要になりまずが、この作業が「論証」です。
本書では、数学で学んだこの「構造化」と「論証」という行為を、数学以外の様々な例で練習していきます。
心に残る「名言」はきちんと構造化されている
構造化とは具体的には
・どこに何があるか
・それらの関係性
の2つを明確にすることと本書では定義されています。
要するに問題を丸裸にすることが構造化です。
問題の本質を整理することだととらえてもよいでしょう。
この構造化の例として面白かったのは「名言」の作り方です。
深沢さんによると、心に残る「名言」はすべてきちんと構造化されています。
例として、京セラ創業者である稲盛和夫さんの名言に次の言葉あります。
「バカな奴は単純なことを複雑に考える。」
「普通の奴は複雑なことを複雑に考える。」
「賢い奴は複雑なことを単純に考える。」
この3行はなぜ名言なのか?なぜ刺さるのか?なぜ分かりやすいのか?
それは、この言葉が「構造化されているから」です。
この名言は「考える」という内容が、「単純」と「複雑」というふたつの概念で構成されています。
数学の集合で用いられる表を使うと以下のようになります。
▲本書の図をもとに作成
このように「考える」という内容を「単純」と「複雑」という二つの概念でとらえ、矛盾のないように分かりやすく伝えることで、心に刺さる名言をつくることもできるのです。
まとめ
計算することが数学ではありません。
数学とはコトバの使い方を学ぶ学問、論理を学ぶ学問です。
本書では、数学で使われる「数学コトバ」を日常に取り入れ、様々なことを「構造化し、きちんと論証し、分かりやすく伝えていく」メソッドについて紹介されています。
数学ってこんなに役に立つんだ、ここが本質なんだと改めて気づかされる本でした。
「数学的に考える力をつける本」オススメです!