角度が等差数列である三角関数の和
今回は三角関数の和
\begin{align*}
\cos \theta + \cos 2\theta + \cos 3\theta + \cdots
\end{align*}
に関連した次の問題を考えてみます。
\begin{align*}
\sum_{k=1}^{12n+1} \cos \frac{k\pi}{6} を求めよ
\end{align*}
この問題は、2020年度の長野県教員採用試験(高等学校)の問題を解く過程で出てきた式です。
直感的にすぐ答えが分かってしまう方もいると思います。みなさんはどうでしょう?
今回は「複素数」と「ベクトル」を用いて答えを導いていきます!
【解法1】複素数を用いる方法
複素数の威力を実感できる方法です。
\[ z=\cos \frac{\pi}{6} +i\sin \frac{\pi}{6} \]
とおく。ド・モアブルの定理により
\[ z^k=\cos \frac{k\pi}{6} +i\sin \frac{k\pi}{6}\]
今回の問題は
\begin{align*}
\sum_{k=1}^{12n+1} z^k \; の実部である
\end{align*}
\begin{align*}
z^{12n+1} & =z^{12n}\cdot z \\
& =(\cos 2n\pi +i\sin 2n\pi)\cdot z \\
& =(1+i\cdot 0)\cdot z\\
& =z
\end{align*}
であることに注意して,等差数列の和の公式を用いると
\begin{align*}
\sum_{k=1}^{12n+1} z^k
& =z+z^2+z^3+\cdots +z^{12n+1}\\
& =\frac{z(1-z^{12n+1})}{1-z}\\
& =\frac{z(1-z)}{1-z}\\
&=z \\
& =\cos \frac{\pi}{6} +i\sin \frac{\pi}{6}\\
& =\frac{\sqrt{3}}{2}+\frac{1}{2}i
\end{align*}
この実部が求める答えであるから
\begin{align*}
\sum_{k=1}^{12n+1} \cos \frac{k\pi}{6} =\frac{\sqrt{3}}{2}
\end{align*}
複素数を使うと、機械的に計算だけで答えを求めることができます.
複素数の威力を実感!
【解法2】 単位ベクトルの活用
\begin{align*}
\overrightarrow{e_k}
=\left(
\begin{array}{c}
\cos \cfrac{k\pi}{6} \\
\sin \cfrac{k\pi}{6}
\end{array}
\right)
\end{align*}
とおくと\(\overrightarrow{e_k}\)は単位ベクトルであり,原点Oを始点としたときの\(\overrightarrow{e_k}\)の終点をKとすると,Kは単位円周上の12等分点のいずれかである。
これらのベクトルの和を考えると明らかに
\[ \overrightarrow{e_1}+\overrightarrow{e_2}+\cdots +\overrightarrow{e_{12}}=\vec{0} \]
であるから,この式の\(x\)成分を取り出すと
\[ \cos \frac{\pi}{6}+\cos \frac{2\pi}{6}+\cdots +\cos\frac{12\pi}{6} =0\]
が成り立つ。同様に
\[ \cos \frac{13\pi}{6}+\cos +\cdots +\cos\frac{24\pi}{6} =0\]
\[ \cos \frac{25\pi}{6}+\cos +\cdots +\cos\frac{36\pi}{6} =0\]
・・・
\[ \cos \frac{(12n-11)\pi}{6}+\cdots +\cos\frac{12n\pi}{6} \\ =0\]
などが成り立つ。したがって
\begin{align*}
\sum_{k=1}^{12n+1} &\cos \frac{k\pi}{6}\\
& =0+\cdots +0 +\cos \frac{(12n+1)\pi}{6}\\
&=\cos \left( 2n\pi +\frac{\pi}{6} \right) \\
&=\cos \frac{\pi}{6}\\
&=\frac{\sqrt{3}}{2}
\end{align*}
今回のような方法をとらなくても,簡単な計算をすれば、項がどんどん消えていくのがわかると思います。
それにしても、ベクトルの力はすごい!
まとめ
\begin{align*}
\sin \frac{\pi}{5}+\sin \frac{2\pi}{5}+\sin \frac{3\pi}{5}+\cdots
\end{align*}
\begin{align*}
\cos \frac{2\pi}{7}+\cos \frac{4\pi}{7}+\cos \frac{6\pi}{7}+\cdots
\end{align*}
のように,\( \theta \)の部分が等差数列である三角関数の和を求める問題は、しばしば入試問題で出題されます。
覚える必要はありませんが、次の式も興味深いです.
\begin{align*}
\sum_{k=1}^n \sin k\theta = \cfrac{\sin \cfrac{n \theta}{2} \sin \cfrac{(n+1)\theta}{2}}{\sin \cfrac{\theta}{2}} \end{align*}
\begin{align*}
\sum_{k=0}^n \cos k\theta = \cfrac{\cos \cfrac{n \theta}{2} \sin \cfrac{(n+1)\theta}{2}}{\sin \cfrac{\theta}{2}} \end{align*}
この式は「やさしい理系数学」の中の「複素数」の分野でも扱われています。
証明は和積の公式を使う方法の他に,今回のように複素数を使う方法も有力です。
証明はまた別の機会に扱えたらと思います。
最後までお読みいただき,ありがとうございました。