本記事では\( n\)乗の和、\(n\) 乗の差の因数分解について解説します。
教科書では次の因数分解を習いますよね。
\[ a^2-b^2=(a-b)(a+b) \]
\[ a^3-b^3=(a-b)(a^2+ab+b^2) \]
では,\( a^4-b^4,\; a^5-a^5,\; \cdots \) ,と指数の部分を増やしていっても因数分解はできるのでしょうか?
また、因数分解できたとするとどのような形になるのでしょうか?
今回はこのような疑問に答えます。
※本記事の内容はぜひ教科書で扱ってほしいと思っています。3乗の和、3乗の差の因数分解公式を丸暗記することに意味を感じません。広い視点で公式の成り立ちを理解することこそ重要です。
\(a^n-b^n \) の因数分解公式
実は\(a^n-b^n \) は因数分解できます!
公式は以下の通りです。(\( n \)は\( 2\) 以上の自然数)
\begin{align}
a^n-b^n=(a-b)(a^{n-1}+a^{n-2}b+\cdots +ab^{n-2}+b^{n-1})
\end{align}
2つめのカッコが複雑に見えますが規則性があります。
\( a^{n-1}\)からスタートして「\( a \) は1ずつ減らし,\( b\)は1つずつ増やしていく」
という規則です。
この規則が分かれば覚えやすいですね!
公式の証明は後ほど解説します。
\(a^n-b^n \) の因数分解公式の\(n\)に自然数を代入してみる
それでは,\(n \) 乗の差の因数分解公式に\( 2\) 以上の自然数を代入してみましょう。
すると
\begin{align}
a^2-b^2&=(a-b)(a+b)\\
a^3-b^3&=(a-b)(a^2+ab+b^2)\\
a^4-b^4&=(a-b)(a^3+a^2b+ab^2+b^3)\\
a^5-b^5&=(a-b)(a^4+a^3b+a^2b^2+ab^3+b^4)\\
a^6-b^6&=(a-b)(a^5+a^4b+a^3b^2+a^2b^3+ab^4+b^5)
\end{align}
と\(n\)乗の差の因数分解の式を次々につくることができます。
3乗の差の因数分解公式も、このような流れで覚えると理解しやすいですね。
ただし,\( a^4-b^4 \) と\( a^6-b^6 \) などはさらに因数分解できるので注意しましょう。
\( a^4-b^4 \) の因数分解
\( a^4-b^4 \) の因数分解は右側のカッコ内がさらに因数分解できます。
\begin{align}
&a^4-b^4\\
&=(a-b)(a^3+a^2b+ab^2+b^3)\\
&=(a-b)\{ a^2(a+b)+b^2(a+b)\} \\
&=(a-b)(a+b)(a^2+b^2)
\end{align}
\( a^6-b^6 \) の因数分解
\( a^6-b^6 \) の因数分解も同様に右側のカッコ内が因数分解できます。
\begin{align}
&a^6-b^6\\
&=(a-b)(a^5+a^4b+a^3b^2+a^2b^3+ab^4+b^5)
\end{align}
ここで右側のカッコ内の式は
\begin{align}
&a^5+a^4b+a^3b^2+a^2b^3+ab^4+b^5\\
&=a^3(a^2+ab+b^2)+b^3(a^2+ab+b^2)\\
&=(a^3+b^3)(a^2+ab+b^2)\\
&=(a+b)(a^2-ab+b^2)(a^2+ab+b^2)
\end{align}
※\( a^3+b^3=(a+b)(a^2-ab+b^2)\)を使いました。
したがって
\begin{align}
&a^6-b^6\\
&=(a-b)(a+b)(a^2-ab+b^2)(a^2+ab+b^2)
\end{align}
となります。
\(a^n-b^n \) の因数分解公式の証明
それでは、\(n\) 乗の差の因数分解公式
\begin{align}
a^n-b^n=(a-b)(a^{n-1}+a^{n-2}b+\cdots +ab^{n-2}+b^{n-1})
\end{align}
を2通りの方法で証明していきます。
※因数定理と整式の割り算で証明することもできますが、少し大変になります。
\(a^n-b^n \) の因数分解公式の証明 その1
右辺を展開すると左辺になるという証明です。
\begin{align}
&(a-b)(a^{n-1}+a^{n-2}b+\cdots +ab^{n-2}+b^{n-1})\\
&=a^n+a^{n-1}b+a^{n-2}b^2+\cdots +a^2b^{n-2}+ab^{n-1}\\
&\qquad\quad -a^{n-1}b-a^{n-2}b^2-\cdots -a^2b^{n-2}-ab^{n-1}-b^n\\
&=a^n-b^n
\end{align}
右辺を展開した式を上のように並べて書くと、上下に並んだ項がすべて消えるのが分かると思います。
\(a^n-b^n \) の因数分解公式の証明 その2
等比数列の和の公式を使う証明です。
\[ S=\frac{a(1-r^n)}{1-r}\]
証明したい因数分解公式
\begin{align}
&a^n-b^n=(a-b)(a^{n-1}+a^{n-2}b+\cdots +ab^{n-2}+b^{n-1})
\end{align}
の右辺の2つ目のカッコ内を見てみましょう。
\[ a^{n-1}+a^{n-2}b+\cdots +ab^{n-2}+b^{n-1}\]
この式は,初項\( a^{n-1}\) ,公比\( \dfrac{b}{a} \),項数\( n \) の等比数列の和になっています。
したがって,等比数列の和の公式より
\begin{align}
&a^{n-1}+a^{n-2}b+\cdots +ab^{n-2}+b^{n-1}\\
&=\frac{a^{n-1}\left\{ 1-\left( \frac{b}{a}\right) ^n \right\}}{1-\frac{b}{a}}\\
&=\frac{a^n\left( 1-\frac{b^n}{a^n}\right) }{a-b}\quad (分母分子にaをかけた)\\
&=\frac{a^n-b^n}{a-b}
\end{align}
したがって、
\[ a^n-b^n=(a-b)(a^{n-1}+a^{n-2}b+\cdots +ab^{n-2}+b^{n-1}) \]
が成り立ちます。
\(a^n+b^n \) の因数分解公式
最後に\(a^n+b^n \) の因数分解についても考えてみます。
\( n\) が奇数のとき
\[ a^n+b^n=(a-b)(a^{n-1}-a^{n-2}b+\cdots -ab^{n-2}+b^{n-1}) \]
右辺2番目のカッコ内はプラスの項とマイナスの項が交互に現れています。
この公式の導き方は,\( n\) が奇数のとき,さきほどの公式
\[ a^n-b^n=(a-b)(a^{n-1}+a^{n-2}b+\cdots +ab^{n-2}+b^{n-1}) \]
の\( b \) を\( -b \) に置きかえます。
すると
\[ a^n+b^n=(a-b)(a^{n-1}-a^{n-2}b+\cdots -ab^{n-2}+b^{n-1}) \]
となります!
ちなみに、次の因数分解公式も重要です。詳しくは記事を参考にしてみてください。
\(a^n+b^n \) の因数分解公式の\(n\)に自然数を代入してみる
それでは,\(n \) 乗の和の因数分解公式に\( 3\) 以上の奇数を代入してみましょう。
すると
\begin{align}
a^3+b^5&=(a+b)(a^2-ab+b^2)\\
a^5+b^5&=(a+b)(a^4-a^3b+a^2b^2-ab^3+b^4)\\
a^7+b^7&=(a+b)(a^6-a^5b+a^4b^2-a^3b^3+a^2b^4-ab^5+b^6)
\end{align}
となります。
右辺2つ目のカッコはプラスの項とマイナスの項が交互に現れます。
きれいな形ですね。
3乗の和の因数分解もこのようにして導くと覚えやすいと思うのですが。
まとめ
今回はn乗の差、n乗の和の因数分解公式について解説しました。
公式は以下の通りです。
\begin{align}
a^n-b^n=(a-b)(a^{n-1}+a^{n-2}b+\cdots +ab^{n-2}+b^{n-1})
\end{align}
\[ a^n+b^n=(a-b)(a^{n-1}-a^{n-2}b+\cdots -ab^{n-2}+b^{n-1}) \]
数学Iの「研究」、あるいは数学Ⅱで学ぶ3乗の和、3乗の差の因数分解
\[a^3-b^3=(a-b)(a^2+ab+b^2) \]
\[a^3+b^3=(a+b)(a^2-ab+b^2) \]
も丸暗記するのでなく、 今回解説した公式における\( n=3 \)の場合であるととらえることが重要だと思っています。