・たすきがけの意味が理解できない。納得できる他の方法を知りたい!
このような悩みを解決します。
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✔︎本記事の内容
- たすきがけを使わない因数分解1(おきかえ)
- たすきがけを使わない因数分解2(\( x \)の係数を分解)
✔︎本記事の対象読者
- 数学Ⅰを学んでいる高校生
- 学校や塾・予備校で数学Ⅰを教えている先生方
ちなみにこの記事を書いている私の経歴は以下の通りです。
- 数学講師歴20年以上
- 大学院の修士課程終了(専門は情報幾何学)
- 数学検定1級取得
「たすきがけ」を使った因数分解は,高校1年生の数学Ⅰで登場します。
「たすきがけ」という言葉は通称で、実際には次の公式を用いる方法のことを指します。
\[ acx^2+(ad+bc)x+bd=(ax+b)(cx+d)\]
\(a,\; b,\; c,\; d\)を求める際に使われる✖️印が、背中側から見た「たすき」のようであることから「たすきがけ」という名前がつけられました.
「たすきがけを使わない方法」というと、「因数定理を用いる方法」や「カッコを2つ並べて直接見つけていく方法」が多いですが、本記事では全く違う方法を2つご紹介します!
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最初にご紹介する方法は,\( x^2\) の係数が1となるように「おきかえ」をする方法です.
具体例で見ていきましょう(証明は後半でご紹介します)
【問題】
\( 5x^2+3x-2\) を因数分解しなさい
<方針>
❶ 式全体に\(x^2\)の係数\( 5\) を掛け,逆数の\(\displaystyle\frac{1}{5}\)でくくる
❷ \(5x\)を\(A\)とおく(\(A^2\)の係数が1となる!)
❸ 因数分解し,\(A\)をもとに戻す
❹ \(\displaystyle\frac{1}{5}\)をどちらかのカッコにかける
【解答】
\begin{align*}
&5x^2+3x-2\\
&=\dfrac{1}{5}(5^2x^2+3\cdot 5x-10) \; (A=5xとおく)\\
&=\dfrac{1}{5}\left\{ (5x)^2+3\cdot (5x)-10 \right\} \\
&=\dfrac{1}{5}(A^2+3A-10)\\
&=\dfrac{1}{5}(A+5)(A-2)\\
&=\dfrac{1}{5}(5x+5)(5x-2)\\
&=(x+1)(5x-2)\\
\end{align*}
<解説>
\(x^2 \) の係数\( 5\) を式全体にかけることで,\( A(=5x)\)の2次式をつくることができます.
\( A^2\) の係数は必ず1となりますので,簡単に因数分解することができるのです.たすきがけ不要!
最後にくくり出した\( \displaystyle\frac{1}{5}\)をどちらかのカッコ(または両方)にかけますが,必ず約分できます.理由については【証明の補足】を参照してみてください.
【証明(一般化)】
一般の形の2次式\( \; ax^2+bx+c\; \)で,たすきがけを使わずに因数分解をしてみます.
\( a\neq 0\)とする
\begin{align*}
&ax^2+bx+c\\
&=\dfrac{1}{a}(a^2x^2+b\cdot ax+ac)\\
&=\dfrac{1}{a}\left\{ (ax)^2+b\cdot (ax)+ac \right\} \; (A=axとおく)\\
&=\dfrac{1}{a}(A^2+bA+ac) \\
\end{align*}
ここで,和が\( b\) ,積が\( ac\) となる2つの整数を\( m,\; n\) が見つかれば
\begin{align*}
&=\dfrac{1}{a}(A+m)(A+n)\\
&=\dfrac{1}{a}(ax+m)(ax+n)\\
\end{align*}
このようにして,たすきがけを使わずに因数分解ができました!
【証明の補足】
上で求まった\(\displaystyle\frac{1}{a}(ax+m)(ax+n)\) は\( \displaystyle\frac{1}{a}\) をどちらかのカッコまたは分母の\( a\) を素因数分解して両方のカッコにかけることで,約分することができます.
(理由)やや難しいですが
\( a\) をある2つの整数\( a_1\) と\( a_2\)の積で表せたとします.
\[ a=a_1a_2\]
積が\( ac \) となる2つの整数を\( m,\; n \)としたので
\[ mn=ac\]
が成り立ちます.ここの\( a=a_1a_2\) を代入すると
\[ mn=a_1a_2c\]
となります.この式の形から,うまく\( a_1,\; a_2\) を選んでやると,\( m\) が\( a_1\) を因数として持ち,\( n\) が\( a_2\) を因数として持つようにすることが可能です.
したがって
\begin{align*}
&\dfrac{1}{a}(ax+m)(ax+n)\\
&=\dfrac{1}{a_1a_2}(ax+m)(ax+n)\\
&=\dfrac{1}{a_1}(ax+m)\cdot \dfrac{1}{a_2}(ax+n)
\end{align*}
において,\( \dfrac{1}{a_1}(ax+m)\) と\( \dfrac{1}{a_2}(ax+m)\) はそれぞれ完全に約分できます.
たすきがけを使わない因数分解2(\( x \)の係数を分解)
【問題】
\( 5x^2+3x-2\) を因数分解しなさい
<方針>
❶ 和が3,積が\( 5\times (-2)=-10\)となる2つの整数を見つける
3は\( x \)の係数,5は\( x^2\) の係数,\(-2 \)は定数項です
❷ \( x\) の係数\( 3\) を上で求めた2つの整数の和で表す
❸ 最初の2項と後の2項に分けて因数分解
【解答】
和が\( x\) の係数3,積が\( 5\times (-2)=-10\) となる2つの整数は,\( -2\) と\( 5\) であるから
\begin{align*}
&5x^2+3x-2\\
&=5x^2+(-2+5)x-2\\
&=5x^2-2x+5x-2\\
&=x(5x-2)+(5x-2)\\
&=(5x-2)(x+1)
\end{align*}
<解説>
\( x \) の係数を解答のように分けることで,共通因数\( (5x-2)\) が見つかります.
第1項目と第3項目,第2項目と第4項目をペアにしても,同様に因数分解できます.
【証明(一般化)】
一般の形の2次式\(\; ax^2+bx+c\; \)で,たすきがけを使わずに因数分解をしてみます.
\( ax^2+bx+c(a\neq 0)\) において,和が\( b \) ,積が\( ac\) となる2つの整数を\( m,\; n\) とすると
\begin{align*}
&ax^2+bx+c\\
&=\dfrac{1}{a}(a^2x^2+abx+ac)\\
&=\dfrac{1}{a}\{ a^2x^2+a(m+n)x+mn\} \\
&=\dfrac{1}{a}(a^2x^2+amx+anx+mn)\\
&=\dfrac{1}{a}\{ ax(ax+m)+n(ax+m) \} \\
&=\dfrac{1}{a}(ax+m)(ax+n)
\end{align*}
最初の方法と同じ式になりました.
まとめ
今回は\( a\neq 1\) である2次式\( \; ax^2+bx+c\; \) を,たすきがけを使わないで因数分解する方法を2通り解説しました.
方法1
方法1は「全体を\( a\) 倍して,\( \dfrac{1}{a}\) でくくり,置き換えをする」というものです.
やり方を理解しておけば、比較的簡単に因数分解ができます!
方法2
方法2は和が\( b \) ,積が\( ac \)となる2つの整数を見つけ,\( x\) の係数を見つけた2つの整数の和に分解するものです.
「和が\( b \) ,積が\( ac \)」という部分が少々覚えにくいかもしれませんが,こちらも簡単に因数分解ができます!
実は、どちらの方法も本質的には同じことをしていて、途中のやり方が違うだけです.
たすきがけを必要とした因数分解が,中学校までに習う因数分解の方法のみで解けるのは興味深いですね!
みなさんも,ぜひ一度試してみてください.
今回は以上です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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