私の最初の就職先は学習塾でした。もう20年も前の話です。
がむしゃらに働いていたのが、とても懐かしく感じられます。
入社3年目になって、新入社員、数十人に向けて「先輩職員からのエール」ということで何か話をするよう依頼されたことがありました。
内容は「中学受験をした小6生が不合格という現実をどのように受け止めていったのか?」にし、この仕事のやりがいについて話をすることにしました。
話すことに自信がなかった私は、ほぼ全文をパソコンに記録。
このときの文、何度読み返しても涙があふれてきます。今回は、そのお話をご紹介したいと思います。
中学受験をするお子さんの保護者の皆さん、塾講師を目指す方、には是非、知っておいてほしい内容です!
新入社員に向けた「先輩職員からのエール」
みなさんこんにちは。
□□校に勤務している○○と申します。今年で3年目になります。
(本校の説明)
私が現在担当している授業は小5~中3までで、「小5算数」「小6算数」、小学生の看板講座「小6受験算数」、「中1~中3までの数学」、そして中学生の看板講座である「中3土曜講座 の数学・理科」です。
(詳しく説明)
今日は私が今まで体験したことを通じて、この仕事に対して感じていること、やりがい、そして皆さんに心がけてほしいことなどをお話ししたいと思います。
塾講師のやりがい
この仕事をやっていて喜びを感じるのは、例えば中3生が志望校に無事合格できたとき。
生徒が先生のおかげで、数学が好きになったといってくれたとき。
学校は嫌いだけど、ここは楽しいといってくれたとき。
など、この仕事をやっていて良かったなあと思うことはたくさんあります。3年間いろいろなことがありました。
小6受験コースを担当
そんな中で、私の心に一番残っている思い出は、「小6受験コース」で教えた生徒たちのことです。
このコースは主に中学受験を目指す生徒たちが集まったコースで、授業は火曜日が国語90分、木曜日に算数90分、土曜日に理科と社会各60分という内容になっています。
4月からスタートするのですが、地元の中学受験は毎年、1月上旬に行われます。小6から入塾した子どもだと、約9ヶ月間で合格できる実力を身につけなければならないので、かなりハードです。
私たちはもちろん全員合格を目指して指導するわけなんですが、すべてよい結果が出るとは限りません。
私たちの力量はもちろん、生徒の努力の仕方、生徒が持っている能力、倍率、当日の出来、不出来すべてが結果に影響してきます。
ときには残念な結果になることも当然あります。
小学生は不合格をどう受け止めるのか
私が酷だと思うのは、まだランドセルを背負って学校に通っている小学生が、もし不合格になってしまったとき、その現実を受けとめなければならないということです。
小学生がこの現実をどう受け止めるのか。受験に失敗した子が、その後高校受験、大学受験などで、消極的になってしまうという話をよく耳にしますから、とても不安です。
実は指導していると、この子はちょっと厳しいかな、とかこの子はたぶんに受かるだろう、ということがある程度わかってしまいます。
残念な結果が出た場合の生徒や保護者へのアフターケアはこの仕事をしているものにとって非常に大切なことです。
合否結果が出たあとも塾は続く
さらにやっかいなのは、受験結果がわかった後も、この「小6受験の授業」は3月まで続くということです。
受験はゴールではないのですし、大切なのは結果ではなくて、それまでいかに努力したかということ。受験が終わった後、どのように努力していくかということだと思います。
だから、基本的に入塾した生徒には最後まで授業を続けていただくことを原則としています。受験が終わったから塾もやめるということはできるかぎりしないように、入塾の際、保護者にお話ししています。
1月~3月の授業では、例年、合格した生徒と、不合格になってしまった生徒が入り混じった状態で授業を行います。
とはいえ、不合格になってしまった生徒は本校をやめてしまうことも多いです。それはそうでしょう。本人も来にくいでしょうからね。受かった人たちも少し気まずさは感じるでしょう。
合格発表の日
昨年はこの受験コースは約25名いました。例年に比べると少し多いです。
この中で残念ながら数名の生徒は不合格になってしまいました。はっきりした数は申し上げられませんが、10名とか20名ではないですよ。
合格発表の日は胃が痛い思いです。合否の連絡は、生徒宛に郵送で送られるので、合格したかどうかを本校まで電話で連絡するように、保護者の皆さんにはお願いしてあります。
「合格しました!」という電話がくれば非常にうれしいですよね。本人が電話に代わる場合もあって、「おめでとう、よくがんばったね」と明るく話すことができます。
しかし、そうでない連絡も想定しておかなければなりません。
合格発表の日の塾 不合格だった生徒は来てくれるのか
そして、合否がわかったその日に授業が始まります。
はたして落ちた生徒達は授業に来てくれるのか。どう接してあげればよいのか。
不合格になった生徒の前で、合格した生徒に「オメデトウ」などとは言えません。
予想通り欠席の連絡が何人かの家から来ました。しかし、そんな中、2人の生徒は来てくれたのです!
しかもすごく明るい笑顔をみせて、受かった子と楽しそうに話しをしている。
偉いですよね。すごいショックをうけているはずなのに、本当に偉いと思いました。
授業後、涙が止まらない
しかし、私たちはそんな大事な生徒のアフターケアをしなければなりませんから、授業が終わった後など、応接室とかに来てもらって話をします。
すると、我慢していたのでしょうね。イスに座った瞬間、突然涙が幼い目からあふれてくるんです。
ずっとその涙は止まりません。
それを見て、私も涙を必死でこらえました。
アフターケアをするものが泣いてはいけないですよ。
でも、生徒の顔をしっかり見ることはできなかったです。
なんて声をかけていいかも全然わかりませんでした。
本当に自分の未熟さを思い知らされました。
授業に来ることができなかった生徒の「日記」に感動
残念ながら授業に来ることができなかった、もう1人の子は、すごく気の小さい男の子で、見た目も線の細い子でした。
その子は1週間ほど授業をお休みしてしまいましたが、塾を辞めることなく、次の週から元気に来てくれました。
うれしいですよね。頼ってきてくれているんです。
そして、その子が授業前、私のところにきて言ったんです。泣きながら。
「先生受からなくてすみません。これからまた、よろしくお願いします。」
頭を下げてきたんです。謝ることではないですよね。むしろ謝るのは私たちの方ですから。
あとで、保護者の方とお話をしてわかったのですが、彼は受験した中学校の結果が出た日の日記に、こんなことを書いたそうです。
「今日は〇〇中の結果が来た。不合格だった。でも、今日が僕の新しい人生のはじまりだ。これからも一生懸命頑張ろう。」
短い文ですが、それを聞いた後、感動して涙があふれてしまいました。
私なんかよりずっと強くて、偉い。子どもなりに、現実を受けとめ、新しい一歩を踏み出そうとしている。
そんなすばらしい、子ども達の生き方を見ることができて本当に幸せです。
もう一人の生徒の話 いじめから逃れたかった
それから、不合格になってしまった子のなかで、小学5年生から我々のところに通ってきてくれてた女子生徒がいます。その子は泣きながら自分で電話をしてきてくれました。
授業も休まず来ました。
その子は、小学校3~4年生のころから、いじめにあっていた子でした。
小学校も中学校もひと学年1クラスしかない山奥の学校の子で、誰からも口を聞いてもらえない最悪の状態だったそうです。
そんな環境を離れたい想いもあって、小学校5年生のころから中学受験を目指しがんばってきました。
入ってきた当初は勉強がすごく遅れていたのですが、2年間のがんばりで、合格できるかできないかのぎりぎりの所まで学力を上げることができました。
いじめのこともあり、彼女には是非とも合格してほしかったのですが、やはりうまくいくことばかりではありませんでした。結果は不合格でした。
受験に失敗。その後の進路で何度も話し合いの末の決断
しかし、このまま同じ仲間と中学校生活を送ることは絶対にできない。
どうしようか。そんな生徒の悩み相談も受けるのがこの仕事です。
解決策として、比較的近くに住んでいるおばあさんの家で面倒をみてもらうい、違う学校に通うという案が出てきました。
そんなとき、彼女の知り合い(友達のようなもの、20才くらい)が埼玉県にいて、面倒をみてあげるのでこっちにこないか、という話をもちかけてきました。
彼女すべてを白紙に戻したい思いがあったのでしょう。親戚でもないただの知り合いのいる埼玉へ行きたい。埼玉へ絶対行く。と言い出し、まったく親の言うことを聞きませんききませんでした。
もちろん、親元を離れて、血のつながりもないお友達の家にお世話になるなんて、彼女のこれからのことを考えるとよくありません。彼女の気持ちもよくわかりますが。
そんな彼女を、母と私ともう一人の先生で、必死に夜中の11時まで説得したこともありました。おばあさんの家にお世話になった方がよい。
そして、もし良ければ、中学になっても通ってきてほしい。受験した中学校に負けないような授業をここでしてあげるから。
何日かの間考えた結果、おばあさんの家にお世話になることになりました。そして、現在も本校に通ってきてくれています。
学校にも元気に通っています。いじめも全くないそうです。本当に良かったという思いでいっぱいです。
受験後も元気な姿を見せる子どもたち
中学受験に失敗した、数人の生徒のうち、1人は引っ越しで残念ながら離れていきましたが、その他の生徒は全員、現在の中1のクラスに在籍し、今まで以上に充実した日々を送っています。
人数が増えたためクラスが分かれ、私も全員の生徒を教えることはできませんが、毎回顔をみることはできます。
みんなとても元気です。私も中1の授業はすごく楽しいです。きっと彼らは、○○中に合格できた生徒以上に人間として大きく成長していってくれるものと期待しています。
大変だが、やりがいがある仕事
この仕事ははっきり言って忙しいし、大変です。
すべてがうまくいくことはありません。授業がうまくいかなくて、悩むこともよくあります。
はじめて教壇に立ったころは、授業がうまくいかなくて、かなり悩んだこともありました。
1人誰もいない教室で授業の練習をしたこともありました。授業に山がなかったり、ノリが悪かったり、メリハリがなかったり、、…いろいろ原因はありましたが、何が一番いけなかったかと言えば、生徒が見えていなかったのです。自分自身のことで精一杯で生徒が主役だということを忘れていました。
今も、反省のくりかえしです。
しかし、生徒1人ひとりのことを考え、一生懸命やっていれば、必ず生徒はわれわれを信頼してくれます。
そして、生徒が日々成長する姿を目の当たりにすることができます。自分自身も生徒と共に成長する事ができます。
この仕事は、大変なことはたくさんありますが、やりがいのあるすばらしい職業であると思っています。是非、一緒に頑張っていきましょう。
まとまりのない話でしたが、またなにかあれば、いつでも聞いてください。
これで、私の話は終わります。
どうもありがとうございました。