本日ご紹介する本は、「渋滞学」を専門とする東大のカリスマ教授、西成活裕先生の著書「東大の先生!文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!」です。
西成先生は、42歳という若さで東大教授になった超エリートでありながら、「子どもにも、学生にも、主婦にも、数学を好きになってほしい!」という熱い思いを持って活動されているスゴイ方です。
本書では、「数学が苦手だった」という大人に向けて書かれており、最短ルートで中学数学の本質を理解することができます。
5~6時間で中学数学が終わってしまう「禁断の書」としてベストセラーになった本書。
普段、数学を教える仕事に携わっている私が、本書から得た気づきをご紹介します。
※いつもよりもやや長めです。
数学は人生の役に立つのか?
なぜ、数学を勉強するのか?
私なりの答えは以下の通りです
- 問題解決能力が養われる
- 論理的思考力が身に付く
- 実際に役に立つ(頭もよくなる)
- 文化として学ぶ(楽しいから学ぶ!)
詳しくは以下をご覧ください。やや堅い文章ですみません。
なぜ数学を学ばなければならないのか?数学を学ぶことで得られるメリットをご紹介
一方、「数学って、人生の役に立つの?」という問いに対して、西成先生の答えは
「役に立たない」のではなく、「役立てようとしていないだけ」
というもの。
本書では実際に哺乳瓶の消毒液をつくることを例に出し、いかに多くの人が「数学を役立てようとせず、思考停止に陥っているか」ということが説かれています。
そして、実際に数学を学習することで「頭がよくなる」とし、「頭のよさ」について踏み込んだ解説が続きます。
「頭のよさ」の正体は「思考体力」です。
数学を学ぶことで「思考体力」が鍛えられる
西成先生によると「頭がいい」ということは「思考体力がある」ということになります。
思考体力とは具体的に以下の6つの力です
- 自己駆動力
- 多段思考力
- 疑い力
- 大局力
- 場合分け力
- ジャンプ力
それぞれの項目について簡単に紹介してみます。
自己駆動力
これは「思考のエンジン」で、「知りたい」「解決したい」という思いの強さです。
言い換えると、「興味・関心を持って、学問に取り組む力」だと、私はとらえました。
学びを「自分ごと」としてとらえ、興味をもって取り組む力。
この力が身につけば、最強です。
興味があれば、人は自発的に勉強をします。興味があれば深く学ぼうとします。結果として頭が良くなっていく。
数学に興味を持つためには、数学を教える側の援助も必要です。
私も教える立場の人間として、子どもたちの自己駆動力を高める手助けをしていきたい、と感じました。
多段思考力
これは「粘り強く考え続ける力」のことつまり、
「AならばB、BならばC,CならばD,・・・」と答えが見つかるまで、何段も考え続ける力のことです。
日常生活だと、通常は、2段とか3段くらいでまで考えて、そこで思考が止まってしまいます。でもこれでは難しい問題は解決できません。
4段、5段、・・・と深く考えていく必要があります。
数学の場合は、問題によっては、10段とか15段とかまでのぼっていくこともあります。数学を勉強することで、多段思考力はかなり鍛えられそうです。
疑い力
「自分の導いた答えは本当に正しいのか?」「自分の理解は本当に正しいのか?」と自分の判断や答えを疑う力です。
「普段、仕事で慣習になっていることは、本当に必要なのか?意味があることなのか?もっと良い方法があるのではないか?」
この「疑い力」は、社会でも必要不可欠な力です。
世の中の常識を疑い、思考停止に陥らないようにするためにも、「疑い力」を高めておきたいものです。
大局力
これは、空を飛ぶ鳥のように「広い視野で物事をみる」ということです。
1か月後、1年後まで見据えて物事を考える。
一部の人だけでなく、社会全体のことを考えてみる。これが大局力です。
視野が狭くなってしまうと数学の問題は解けません。
客観的な立場に立ち、問題の全体像を見ていける力をつけていきたいものです。
場合分け力
複雑な課題などで、選択肢がたくさんあるときに、正しく評価する力のことです。
数学だと、問題に対して「どの数学のツールを使うと早く解けそうか」と判断するような場合にこの力が必要になります。
ジャンプ力
いわゆる ”ひらめき力” です。
こんなやり方で??と突飛な発想をした結果、課題が解決できることがありますよね。
ゴールから逆算すること
本書のメインは、中学数学を5~6時間で学べるという部分です。
西成先生はまずゴールを掲げます
数学というものは大きく3つの分野に分けられます。
●代数=数・式
●解析=グラフ
●幾何=図形
そして、中学数学のゴールとは
●代数 → 二次方程式
●解析 → 二次関数
●幾何 → ピタゴラスの定理・円周角・相似
であるとし、最も重要なのが代数のゴールでもある「二次方程式」だとしています。実に明快です!
二次方程式こそが中学数学の最高到達点であり、ラスボスです。
数学の世界と、中学数学の世界を分かりやすく結び付け、適切なゴールを設定する。
さすがです。
ゴールを設定しゴールから逆算して考える。
これは数学を学習する際に絶対に必要です。
そして、「そのゴールに到達するために、様々なツールについて学習していく」というイメージを持つ。
教える側も、教わる側もこのゴールを共有しておくことが、数学の学びにおいて非常に重要だと感じました。
イメージしやすいのが「複素数と方程式」の分野
やや専門的になりますが、数学Ⅱの「複素数と方程式」という分野が「ゴールから逆算」をイメージしやすいと思います。
この分野では私も、西成先生のようにゴールから逆算した問題提示をしていました。
ラスボス的存在は「高次方程式」です。
この「高次方程式」を解くために、2次の因数分解を学び、3乗の因数分解を学び、分数式、整式の割り算を学ぶ。さらに、虚数単位を導入して、iの計算を学び、剰余の定理・因数定理を経て、高次方程式というラスボスに立ち向かう。
他の分野についても、「ゴールを明確にする」!これをしっかりやっていきたいです。
本質は最短・最速で伝えられる!
本書のスゴイところは、本質的な部分を最短・最速で伝えてくれるところです。
二次方程式についても、関数についても、図形についても、本質的な部分をとにかく短く、そしてわかりやす説明してくれます。
中1の部分は、最初2ページくらい解説で「これで中1数学の半年分がおわり」となります。
中2の代数の内容も2ページほど説明があって、「はい、これで中2の代数はほとんど終わり」といった感じです。
読んでいるこちらは、呆気にとられてしまいます。「え?これだけ?」という感じです。
「一次方程式とは ”式をかたまり” としてとらえること、で終わりです。こんな簡単なことに半年もかけているんです。5分でおわるのにねぇ。」
という言葉が特に印象に残りました。
私も、問題の本質をとらえ、「二次方程式とはこういうこと」「微分とはこいういうこと」「関数とはこういうこと」と最短・最速の説明ができるように頑張ってみます。
現実的に即したことを教えたい
中学高校で学ぶの数学では、二次方程式の解法は「因数分解を利用した方法が主役であるである」という印象を受けます。
しかし、現実の世界では、因数分解を使って解ける例はかなりレアな存在だと西成先生は自身の体験を話します。
現実世界に即した数学を扱って30年、毎日のように二次方程式を使ってきて、実際に因数分解で二次方程式を解けたのは、30年で3回しかないそうです!
因数分解で解ける二次方程式はテストではたくさん出題されるかもしれませんが、現実世界で使えるケースはめちゃくちゃ限定されていたのです。
二次方程式の解法のメインはあくまでも「平方完成」。
本書で、「平方完成」を用いる解法がメインとなっていた理由がよくわかりました。
私も教える立場にあるのだから、もっと現実的なことをきちんと学びたいと強く思いました。
まとめ:中学数学を5~6時間で学ぼう
本書では、中学数学の核になる部分を最速・最短で学ぶことができます。
さらに、その先の微分や積分の考え方についても、楽しく、わかりやすく学べます。
本書のメインは「二次方程式」ですが、個人的には、幾何の説明も興味深かったです。
「ピタゴラスの定理」を、3通りの方法で証明することで、平行線と角・相似・円周角など中学で習う図形の重要事項をすべて学べるような流れになっています。
本書は「数学が苦手だった人」や「中学数学の全体像を短時間でつかんでみたい」という人におすすめの本です。
そして、数学が苦手な人だけでなく、数学を教える立場にある方にもぜひ目を通しておいてほしい本であると思いました。
「東大の先生!文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!」おすすめです!