中学校で習う三平方の定理(ピタゴラスの定理)と、高校の数学Ⅰで習う余弦定理。
教科書には書かれていませんが、実は「余弦定理は三平方の定理を一般化したもの」なのです。
本記事では、余弦定理が平方の定理の一般化であることを示し、具体的な計算をしながらイメージをつかむ練習をしていきます。
まずは、それぞれの定理について見ていきましょう。
三平方の定理(ピタゴラスの定理)とは
三平方の定理は直角三角形の三辺の関係を表した式で、別名「ピタゴラスの定理」ともよばれています。
図のような\( A=90° \) の直角三角形において
\[ a^2=b^2+c^2 \]
が成り立つ.
角\( A=90°\)のとき、2辺\( b,\; c \) の長さから\( A \)に向かい合う辺\( a\)の長さを求めることができます。
では、\( A \) が\( 90°\) 以外の場合\(a\) の長さを求めることはできないのでしょうか?
次に紹介する「余弦定理」を使えば、Aが\(90°\)でなくても、辺\(a\)の長さを求めることができます!
余弦定理とは
余弦とはコサイン(\(\cos\))のことで、余弦定理はコサインに関する定理です。
図のような△\(ABC\)において
\[ a^2=b^2+c^2-2bc\cos A \]
が成り立つ.
2辺\( b,\; c \) とその間の角\( A \)から、\( A \) に向かい合う辺\( a \) の長さを求めることができます。
ちなみに余弦定理は普通、次の3つの式で示されます。
\begin{align}
&a^2=b^2+c^2-2bc\cos A \\
&b^2=c^2+a^2-2ca\cos B \\
&c^2=a^2+b^2-2ab\cos C
\end{align}
ただし、一番上の式だけ覚えておけば、残りの2つの式は辺と角度の関係から導くことができますね。
余弦定理は三平方の定理を一般化したもの
それでは、余弦定理が三平方の定理を一般化したものであることを見ていきます。
余弦定理において、\( A =90°\) である場合を考えてみましょう。
余弦定理の式
\[ a^2=b^2+c^2-2bc\cos A \]
に\( A =90°\)を代入します。
\( \cos 90°=0\) なので
\begin{align}
a^2&=b^2+c^2-2bc\cos 90°\\
&=b^2+c^2-2bc\cdot 0 \\
&=b^2+c^2
\end{align}
結果は三平方の定理\( a^2=b^2+c^2 \)になっていますね!
余弦定理は\( 0°<A <180°\)で成り立つ定理ですが、\( A=90°\)とした特別な場合に成り立つのが三平方の定理です。
つまり、余弦定理は三平方の定理を一般化したものと考えることができるのです。
具体例で辺\( a\)の長さを求めてみる
次の図をご覧ください。
3つの三角形は、\( b=3,\; c=2 \) で固定し、角\( A\)の大きさを\( 60°\),\(90°\),\( 120°\)と変えたものです。
角度が大きくなるにつれて、辺\( a\)の長さが長くなっていくのがイメージできると思います。
実際に余弦定理を用いて、それぞれの三角形における\( a \) の長さを計算をしてみましょう。
\( A=60°\)のとき
余弦定理により
\begin{align}
a^2&=3^2+2^2-2\cdot 3\cdot 2\cdot \cos 60°\\
&=9+4-2\cdot 3\cdot 2\cdot \frac{1}{2}\\
&=7
\end{align}
\( a>0\)より,\( a=\sqrt{7} \)
\( A=90°\)のとき
余弦定理により(三平方の定理でもよいです)
\begin{align}
a^2&=3^2+2^2-2\cdot 3\cdot 2\cdot \cos 90°\\
&=9+4-2\cdot 3\cdot 2\cdot 0\\
&=13
\end{align}
\( a>0\)より,\( a=\sqrt{13} \)
\( A=120°\)のとき
余弦定理により
\begin{align}
a^2&=3^2+2^2-2\cdot 3\cdot 2\cdot \cos 120°\\
&=9+4-2\cdot 3\cdot 2\cdot \left( -\frac{1}{2}\right)\\
&=19
\end{align}
\( a>0\)より,\( a=\sqrt{19} \)
以上の結果より、角\( A\)が
\[ 60°,90°,120°\]
と大きくなるにつれて、辺\( a\)の長さが
\[ \sqrt{7},\quad \sqrt{13},\quad \sqrt{19} \]
と、長くなっていくのが分かりました。
実は\( 0°<A<180°\)の範囲だと、角度の大きさに関わらず、角\( A\)を大きくしていくと、それにつれて辺\(a\)の長さも長くなっていきます。
この理由を次の「余弦定理のイメージ」で解説していきます。
余弦定理のイメージ
余弦定理をもう一度見てみましょう。
\( \underbrace{a^2=b^2+c^2}_{\bf 三平方の定理}-2bc\cos A\)
よく見ると、前半の部分は\( a^2=b^2+c^2 \) で三平方の定理となっており、後半に\( -2bc\cos A\)が付け加えられた形になっています。
この\( -2bc\cos A\)の部分が、三平方の定理を拡張した部分です。
\( 0°<A<180°\)の範囲で、角\( A\)を大きくしていくと\(\cos A\)の値は次のように単調に減少していきます。
\( 0°<A<180°\)の範囲では、\(\cos A\) の値は\(1\)から\(-1\)に向けて減少していくのがわかると思います。
※単位円でのコサインの値の変化を習った人はそのイメージの方がよいです。
すると\(2bc\cos A\)の値も徐々に減っていくので、これを引いた、
\[ a^2=b^2+c^2-2bc\cos A\]
は徐々に増加していくのです!
これが、先ほどの例で、角\( A\)を大きくしていくと、それにつれて辺\(a\)の長さも長くなっていく理由です。
ちなみに次のことも言えます。
・\( 0°<A<90°\)のときは\(2bc\cos A\)の値は正なので,これを引くことで,\(a^2\)の値は\(b^2+c^2\)より小さくなります。
・\( 90°<A<180°\)のときは\(2bc\cos A\)の値は負となるので,\(a^2\)の値は\(b^2+c^2\)より大きくなります。
このように、「余弦定理は三平方の定理\( a^2=b^2+c^2\)に\( -2bc\cos A\)の項が付け加わったもの」であるとイメージしておくことをおすすめします。
まとめ
今回は、余弦定理が三平方の定理の一般化であることを解説しました。
余弦定理のイメージを持ってもらうために、具体的な計算と三平方の定理との関係についても見てきました。
まったく別々だと思っていた定理が、実は1つにつながっていたのです!
数学の奥深さ、素晴らしさを少しだけ感じることができたのではないかと思います。
今回のように余弦定理をイメージできれば、複雑な式も頭に入りやすくなりますね。