組み合わせで出てくる\({}_n\mathrm{C}_r\)の公式がたくさんありすぎて混乱してしまう。
このような悩みを解決します。
本記事では、組み合わせで登場する二項係数\({}_n\mathrm{C}_r\)についての重要公式9つを紹介し、その覚え方を解説します。
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✔︎本記事の内容
1.二項係数\({}_n\mathrm{C}_r\)の基礎を確認
2.二項係数\({}_n\mathrm{C}_r\)の最重要公式3つ
3.二項係数\({}_n\mathrm{C}_r\)の和の公式6つ
ちなみにこの記事を書いている私の経歴は以下の通りです。
- 数学講師歴20年以上
- 大学院の修士課程終了(専門は情報幾何学)
- 数学検定1級取得
今回ご紹介する9つの公式は、以下の通りです。
【二項係数\( _n{\rm C}_r\)の最重要公式3つ】
① \({}_n\mathrm{C}_r={}_n\mathrm{C}_{n-r} \)
② \(r {}_n\mathrm{C}_r=n {}_{n-1}\mathrm{C}_{r-1} \)
③ \({}_n\mathrm{C}_r={}_{n-1}\mathrm{C}_{r-1} +{}_{n-1}\mathrm{C}_r\)
【二項係数\( _n{\rm C}_r\)の和の公式6つ】
④ \({}_n\mathrm{C}_0 + {}_n\mathrm{C}_1+ {}_n\mathrm{C}_2 + {}_n\mathrm{C}_3+ \cdots + {}_n\mathrm{C}_n =2^n\)
⑤ \({}_n\mathrm{C}_0 – {}_n\mathrm{C}_1+ {}_n\mathrm{C}_2 – {}_n\mathrm{C}_3+ \cdots
+(-1)^n \cdot {}_n\mathrm{C}_n =0\)
⑥ \({}_n\mathrm{C}_1 +2 {}_n\mathrm{C}_2+3 {}_n\mathrm{C}_3 +4 {}_n\mathrm{C}_4+ \cdots +n\cdot {}_n\mathrm{C}_n=n\cdot 2^{n-1}\)
⑦ \({}_n\mathrm{C}_1 -2 {}_n\mathrm{C}_2+3 {}_n\mathrm{C}_3 -4 {}_n\mathrm{C}_4+ \cdots +(-1)^n n\cdot {}_n\mathrm{C}_n=0\)
⑧ \({}_k\mathrm{C}_0 + {}_{k+1}\mathrm{C}_1+ {}_{k+2}\mathrm{C}_2 + {}_{k+3}\mathrm{C}_3+ \cdots
+ {}_{k+r} \mathrm{C}_r ={}_{k+r+1} \mathrm{C} _r\)
⑨ \(({}_n\mathrm{C}_0)^2 +( {}_n\mathrm{C}_1)^2+ ({}_n\mathrm{C}_2)^2 +( {}_n\mathrm{C}_3)^2+ \cdots + ({}_n\mathrm{C}_n)^2 ={}_{2n}\mathrm{C}_n\)
これらの公式は、教科書では系統的に扱われていませんが、大学入試では頻出です。
導き方・覚え方を含めてしっかりと押さえておくことをおすすめします。
二項係数に関する公式については、以下の問題集が詳しいです。
それでは、順番に見ていきましょう。
二項係数\({}_n\mathrm{C}_r\)の基本を確認
まず最初に「組合せ」と「二項定理」の基本を確認します。
組合せとは
「組合せ」とは「いくつかの物から、いくつかの物を選び出す方法」のことです。
注意点:選ぶだけで並べない!
※いくつかの物からいくつかの物を選んで並べる方法は「順列」といいます。
組合せの総数は、次のような記号を用いて表されます。計算方法も確認しておきましょう。
\( n\)個のものの中から \( r\)個取り出すときの組合せの総数を\( {}_n\mathrm{C}_r\)と表す。
この\( {}_n\mathrm{C}_r\)が二項係数と呼ばれるものです。
【例】 7個から3個を取り出す組合せの総数は
\[ {}_7\mathrm{C}_3=\frac{7\times 6\times 5}{3\times 2\times 1}=35 \]
二項定理について
二項定理とは,\( n\)乗の式を展開する以下のような公式のことです
\begin{align*}
(a+b)^n&=\displaystyle\sum_{k=0}^n{}_n\mathrm{C}_ka^{n-k}b^{k}\\
&={}_n\mathrm{C}_0a^n+{}_n\mathrm{C}_1a^{n-1}b+{}_n\mathrm{C}_2a^{n-2}b^2+\cdots +{}_n\mathrm{C}_nb^n
\end{align*}
文字ばかりで最初は抵抗があるかもしれませんが、慣れてしまえば簡単です。
二項係数\({}_n\mathrm{C}_r\)の公式を導く際は、上の式で\(a=1,\; b=x \)とした、以下の式を用います。
\[
(1+x)^n= {}_n\mathrm{C}_0 + {}_n\mathrm{C}_1x+ {}_n\mathrm{C}_2x^2+ {}_n\mathrm{C}_3x^3+ \cdots + {}_n\mathrm{C}_nx^n ・・(A)\]
この式は、様々な公式を生み出す元になる関数でもあり、とても重要な式ですので確実に覚えておきましょう。
二項係数\({}_n\mathrm{C}_r\)の重要公式3つ
それでは\({}_n\mathrm{C}_r\)の次の重要公式3つを順に解説していきます。
① \({}_n\mathrm{C}_r={}_n\mathrm{C}_{n-r} \)
② \(r {}_n\mathrm{C}_r=n {}_{n-1}\mathrm{C}_{r-1} \)
③ \({}_n\mathrm{C}_r={}_{n-1}\mathrm{C}_{r-1} +{}_{n-1}\mathrm{C}_r\)
残りを考える式
\[ ① {}_n\mathrm{C}_r={}_n\mathrm{C}_{n-r} \]
この式は組合せの定義式\({}_n\mathrm{C}_r=\dfrac{n!}{r!(n-r)!}\)を用いて証明できますが、今回はできるだけ意味で理解することを目標に解説していきます。
意味で理解できれば、公式も覚えやすくなるからです!
【意味で理解】
(\(n\)個から\(r\)個を選ぶこと)=(\(n\)個から残りの\(n-r\)個を選ぶこと)
【例】
(7個のお菓子から5個を選んで食べる)\(=\)(7個のお菓子から”食べない2個”を選ぶ)
これを式で表すと
\({}_7\mathrm{C}_5={}_7\mathrm{C}_2\)
となります。
グループのリーダーを選ぶ式
\[② r {}_n\mathrm{C}_r=n {}_{n-1}\mathrm{C}_{r-1} \]
この式も\({}_n\mathrm{C}_r=\dfrac{n!}{r!(n-r)!}\)を用いて証明できますが、意味で説明します。
くり返しになりますが、意味でとらえておくことで公式が覚えやすく、そして思い出しやすくなります。
【意味で理解】
\(n\)人のメンバーから\(r\)人のグループをつくり、グループのリーダーを1人決める場合を考えます。
〔左辺の意味〕
\(n\)人から\(r\)人を選んでグループをつくる・・・\({}_n\mathrm{C}_r\)通り
その中からリーダーを1人決める・・・\(r\)通り
〔右辺の意味〕
\(n\)人から先にリーダーを1人決める・・・\(n\)通り
残りの\(n-1\)人からリーダーを除く\(r-1\)人を選ぶ・・・\({}_{n-1}\mathrm{C}_{r-1}\)通り
どちらの方法も\(n\)人のメンバーから\(r\)人のグループをつくり、グループのリーダーを1人決める場合の数ですので、これらは等しくなります。
したがって、公式②が成り立ちます。
◆先にグループメンバーを決める・・・左辺
◆先にリーダーを決める・・・右辺
というように、「先にグループメンバーを決める場合」と「先にリーダーを決める場合」を考え、これらが等しいことから式を作ります。
【例】7人から4人グループをつくり、グループのリーダーを1人決める場合を次のように2通りの方法で考えます。
◆7人からまず4人を選んでグループを作り、その後、グループのリーダーを1人決める
◆7人から先にリーダーを1人決め、残りの6人からリーダー以外の3人を選ぶ
これらが等しいので
\({}_7\mathrm{C}_4\times 4=7\times {}_6\mathrm{C}_3\)
かけ算の記号を省略すると
\(4 {}_7\mathrm{C}_4=7 {}_6\mathrm{C}_3\)
となりました!
ある特定の人がグループに属するか属さないかで場合分をする式
\[ ③ {}_n\mathrm{C}_r={}_{n-1}\mathrm{C}_{r-1} +{}_{n-1}\mathrm{C}_r\]
①②と同様に、意味で解説します。
【意味で理解】
\(n\)人から\(r\)を選ぶとき、ある特定の人(Aさん)がそのグループに含まれるか含まれないかで場合分けします。
(\(n\)人から\(r\)を選ぶ)\(=\)(Aさんが含まれる場合)または(Aさんが含まれない場合)
すなわち
(\(n\)人から\(r\)を選ぶ)\(=\)(Aさん以外の\(n-1\)人から\(r-1\)人を選ぶ)
または(Aさん以外の\(n-1\)人から、\(r\)人を選ぶ)
※右辺の前半は「Aさんがすでに\(r\)人に含まれている」ことに注意しましょう。
これを式にすると
\( {}_n\mathrm{C}_r={}_{n-1}\mathrm{C}_{r-1} +{}_{n-1}\mathrm{C}_r\)
が導かれます。
【例】Aさんを含む7人から4人を選ぶ場合
「Aさんが含まれる場合」と「Aさんが含まれない場合」で分けて考えます。
(7人から4人選ぶ)
\(=\)(4人にAさんが含まれる)または(4人にAさんが含まれない)
\(=\)(Aさん以外の6人から3人を選ぶ)または(Aさん以外の6人から、4人を選ぶ)
これを式にすると
\({}_7\mathrm{C}_4={}_{6}\mathrm{C}_{3} +{}_{6}\mathrm{C}_4\)
が成り立ちます。
二項係数nCrの和の公式6つ
続いて、次の二項係数nCrの和の公式6つを順番に解説します。
④ \({}_n\mathrm{C}_0 + {}_n\mathrm{C}_1+ {}_n\mathrm{C}_2 + {}_n\mathrm{C}_3+ \cdots + {}_n\mathrm{C}_n =2^n\)
⑤ \({}_n\mathrm{C}_0 – {}_n\mathrm{C}_1+ {}_n\mathrm{C}_2 – {}_n\mathrm{C}_3+ \cdots
+(-1)^n \cdot {}_n\mathrm{C}_n =0\)
⑥ \({}_n\mathrm{C}_1 +2 {}_n\mathrm{C}_2+3 {}_n\mathrm{C}_3 +4 {}_n\mathrm{C}_4+ \cdots +n\cdot {}_n\mathrm{C}_n=n\cdot 2^{n-1}\)
⑦ \({}_n\mathrm{C}_1 -2 {}_n\mathrm{C}_2+3 {}_n\mathrm{C}_3 -4 {}_n\mathrm{C}_4+ \cdots +(-1)^n n\cdot {}_n\mathrm{C}_n=0\)
⑧ \({}_k\mathrm{C}_0 + {}_{k+1}\mathrm{C}_1+ {}_{k+2}\mathrm{C}_2 + {}_{k+3}\mathrm{C}_3+ \cdots
+ {}_{k+r} \mathrm{C}_r ={}_{k+r+1} \mathrm{C} _r\)
⑨ \(({}_n\mathrm{C}_0)^2 +( {}_n\mathrm{C}_1)^2+ ({}_n\mathrm{C}_2)^2 +( {}_n\mathrm{C}_3)^2+ \cdots + ({}_n\mathrm{C}_n)^2 ={}_{2n}\mathrm{C}_n\)
④と⑤、⑥と⑦は同じタイプの式です。
二項定理から和の公式を導く1
\[ ④ {}_n\mathrm{C}_0 + {}_n\mathrm{C}_1+ {}_n\mathrm{C}_2 + {}_n\mathrm{C}_3+ \cdots + {}_n\mathrm{C}_n =2^n\]
最初に解説した、次の二項定理の公式を利用します。
\[ (1+x)^n= {}_n\mathrm{C}_0 + {}_n\mathrm{C}_1x+ {}_n\mathrm{C}_2x^2+ {}_n\mathrm{C}_3x^3+ \cdots + {}_n\mathrm{C}_nx^n・・・(A)\]
【導き方】
(A)に\(x=1\)を代入すると得られます。
この公式は数学の様々な場面で登場する大事な式ですので、一から導けるようにしておきましょう。
【例と意味】
\(n=5\)の場合
\[ {}_5\mathrm{C}_0 + {}_5\mathrm{C}_1+ {}_5\mathrm{C}_2 + {}_5\mathrm{C}_3+{}_5\mathrm{C}_4 + {}_5\mathrm{C}_5 =2^5\]
で右辺は32となります。
この数は次の図で、Aからスタートして最短経路を通り、図の太線に到達する経路の数と等しくなっています。
図の●へ行く最短経路が、それぞれ左上から順に
\[ {}_5\mathrm{C}_0, {}_5\mathrm{C}_1, {}_5\mathrm{C}_2 ,{}_5\mathrm{C}_3,{}_5\mathrm{C}_4 , {}_5\mathrm{C}_5 通り\]
となっていることから理解できると思います。
この経路が32通りあるということです。
二項定理から和の公式を導く2
\[⑤ {}_n\mathrm{C}_0 – {}_n\mathrm{C}_1+ {}_n\mathrm{C}_2 – {}_n\mathrm{C}_3+ \cdots
+(-1)^n \cdot {}_n\mathrm{C}_n =0\]
④と同様、次の式を使います。
\[ (1+x)^n= {}_n\mathrm{C}_0 + {}_n\mathrm{C}_1x+ {}_n\mathrm{C}_2x^2+ {}_n\mathrm{C}_3x^3+ \cdots + {}_n\mathrm{C}_nx^n・・・(A)\]
【導き方】
(A)に\(x=-1\)を代入すると⑤の式が得られます。
マイナスの項を右辺に移項すると次の式が得られます。
\[ {}_n\mathrm{C}_0 + {}_n\mathrm{C}_2+ {}_n\mathrm{C}_4+\cdots
={}_n\mathrm{C}_1 + {}_n\mathrm{C}_3+ {}_n\mathrm{C}_5+ \cdots ・・⑤’\]
これは\({}_n\mathrm{C}_r\)について
\(r\)が偶数のものの総和\(\; =\; \)\(r\)が奇数のものの総和
となることを意味しています。
【例と意味】
⑤’に、\(n=5\)を代入すると
\[ {}_5\mathrm{C}_0 + {}_5\mathrm{C}_2 + {}_5\mathrm{C}_4
={}_5\mathrm{C}_1 + {}_5\mathrm{C}_3+ {}_5\mathrm{C}_5 \]
となります。
この式は、次の図でAからスタートして図の太線まで行く最短経路で考えたとき
●へ行く経路の合計=○へ行く経路の合計
であることを表しています。
これは、図の●または○へ行く最短経路がそれぞれ左上から順に
\[ {}_5\mathrm{C}_0, {}_5\mathrm{C}_1, {}_5\mathrm{C}_2 ,{}_5\mathrm{C}_3,{}_5\mathrm{C}_4 , {}_5\mathrm{C}_5 通り\]
となっていることから確認できます。
二項定理の微分から和の公式を導く1
\[ ⑥ {}_n\mathrm{C}_1 +2 {}_n\mathrm{C}_2+3 {}_n\mathrm{C}_3 +4 {}_n\mathrm{C}_4+ \cdots +n\cdot {}_n\mathrm{C}_n=n\cdot 2^{n-1}\]
続いて、⑥と⑦を示すための準備をしましょう。
\[ (1+x)^n= {}_n\mathrm{C}_0 + {}_n\mathrm{C}_1x+ {}_n\mathrm{C}_2x^2+ {}_n\mathrm{C}_3x^3+ \cdots + {}_n\mathrm{C}_nx^n・・・(A)\]
上の二項定理の式(A)を\(x\)で微分すると、次の式が導かれます。
\[ n(1+x)^{n-1}= {}_n\mathrm{C}_1 +2 {}_n\mathrm{C}_2x+3 {}_n\mathrm{C}_3 x^2+4 {}_n\mathrm{C}_4x^4+ \cdots +n {}_n\mathrm{C}_nx^{n-1}・・・(B)\]
この式を用いると⑥⑦の公式を導きます。
【導き方】
⑥の公式は(B)に\(x=1\)を代入すると得られます。
【例】
\(n=5\)のとき
\[ {}_5\mathrm{C}_1 +1 {}_5\mathrm{C}_2+3 {}_5\mathrm{C}_3 +4 {}_5\mathrm{C}_4+5{}_5\mathrm{C}_5=5\cdot 2^4\]
となり、答えは\( 80\) となります。
二項定理の微分から和の公式を導く2
\[ ⑦ {}_n\mathrm{C}_1 -2 {}_n\mathrm{C}_2+3 {}_n\mathrm{C}_3 -4 {}_n\mathrm{C}_4+ \cdots +(-1)^n n\cdot {}_n\mathrm{C}_n=0\]
【導き方】
同様に(B)に\(x=-1\)を代入すれば⑦の公式が得られます。
【例】
\(n=5\)のとき
\[ {}_5\mathrm{C}_1 -2 {}_5\mathrm{C}_2+3 {}_5\mathrm{C}_3 -4 {}_5\mathrm{C}_4+5 {}_5\mathrm{C}_5=0\]
となります。
\(n\)が偶数でも奇数でも、右辺が0になるのは興味深いですね。
いつ大通りに出るかで場合分け【平行等式】
\[ ⑧ {}_k\mathrm{C}_0 + {}_{k+1}\mathrm{C}_1+ {}_{k+2}\mathrm{C}_2 + {}_{k+3}\mathrm{C}_3+ \cdots
+ {}_{k+r} \mathrm{C}_r ={}_{k+r+1} \mathrm{C} _r\]
まずは具体例で考えてみます。
例えば\(k=2,\; r=4\)の場合、⑧は次のようになります。
\[ {}_2\mathrm{C}_0 + {}_{3}\mathrm{C}_1+ {}_{4}\mathrm{C}_2 + {}_{5}\mathrm{C}_3+ {}_{6} \mathrm{C}_4 ={}_{7} \mathrm{C} _4・・・⑧’\]
この式は、\({}_n\mathrm{C}_r\)の\(n\)と\(r\)が1ずつ増えていく形になっているため、別名「平行等式」と呼ばれています。
この式は「いつ大通りに出るかで場合分した最短経路」を考えると導くことができます。
【導き方1(覚え方)】
図のようなAからBまで行く最短経路を考えてみると、\({}_7\mathrm{C}_4\)通りとなります。これが⑧’の右辺です。
この\({}_7\mathrm{C}_4\)通りの最短経路を、図の矢印を通る場合で場合分けして考えます。
矢印①を通る経路は\({}_2\mathrm{C}_0\times 1={}_2\mathrm{C}_0\)(通り)
矢印②を通る経路は\({}_3\mathrm{C}_1\times 1={}_3\mathrm{C}_1\)(通り)
矢印③を通る経路は\({}_4\mathrm{C}_2\times 1={}_4\mathrm{C}_2\)(通り)
矢印④を通る経路は\({}_5\mathrm{C}_3\times 1={}_5\mathrm{C}_3\)(通り)
矢印⑤を通る経路は\({}_6\mathrm{C}_4\times 1={}_6\mathrm{C}_4\)(通り)
となるので
\[ {}_{7} \mathrm{C} _4={}_2\mathrm{C}_0 + {}_{3}\mathrm{C}_1+ {}_{4}\mathrm{C}_2 + {}_{5}\mathrm{C}_3+ {}_{6} \mathrm{C}_4 \]
が導かれます。
これを一般化した式が⑧です。
【導き方2】
先ほど示した公式
\[ ③ {}_n\mathrm{C}_r={}_{n-1}\mathrm{C}_{r-1} +{}_{n-1}\mathrm{C}_r\]
を利用して順番にばらしていくことで導くことも可能です。
\begin{align*}
{}_7\mathrm{C}_4 &={}_6\mathrm{C}_4 +{}_6\mathrm{C}_3 \\
&= {}_6\mathrm{C}_4 +{}_5\mathrm{C}_3 +{}_5\mathrm{C}_2 \\
&= {}_6\mathrm{C}_4 +{}_5\mathrm{C}_3 +{}_4\mathrm{C}_2 +{}_4\mathrm{C}_1\\
&= {}_6\mathrm{C}_4 +{}_5\mathrm{C}_3 +{}_4\mathrm{C}_2 +{}_3\mathrm{C}_1 +{}_3\mathrm{C}_0\\
\end{align*}
ここで
\({}_3\mathrm{C}_0={}_2\mathrm{C}_0\)なので
\[ {}_{7} \mathrm{C} _4={}_2\mathrm{C}_0 + {}_{3}\mathrm{C}_1+ {}_{4}\mathrm{C}_2 + {}_{5}\mathrm{C}_3+ {}_{6} \mathrm{C}_4 \]
となります。
これを一般化すると⑧が導かれます。
対称性を利用して最短経路を求める
\[ ⑨ ({}_n\mathrm{C}_0)^2 +( {}_n\mathrm{C}_1)^2+ ({}_n\mathrm{C}_2)^2 +( {}_n\mathrm{C}_3)^2+ \cdots + ({}_n\mathrm{C}_n)^2 ={}_{2n}\mathrm{C}_n\]
この公式も、具体的に\(n=4\)の場合で考えてみます。
\[ ({}_4\mathrm{C}_0)^2 +( {}_4\mathrm{C}_1)^2+ ({}_4\mathrm{C}_2)^2 +( {}_4\mathrm{C}_3)^2
+( {}_4\mathrm{C}_4)^2 ={}_{8}\mathrm{C}_4\]
⑧と同様に最短経路で考えてみましょう。
【導き方1(覚え方)】
最短経路で考えます。
図でAからBへ行く最短経路は\({}_{8}\mathrm{C}_4\)通りですが、これは
(1) 点①を通る場合
(2) 点②を通る場合
(3) 点③を通る場合
(4) 点④を通る場合
(5) 点⑤を通る場合
の5通りの排反な場合に分けられますが、(1)から(5)は、対称性からそれぞれ
\(({}_4\mathrm{C}_0)^2 ,\; ( {}_4\mathrm{C}_1)^2,\; ({}_4\mathrm{C}_2)^2 ,\; ( {}_4\mathrm{C}_3)^2,\; ( {}_4\mathrm{C}_4)^2\)
通りです。
したがって
\[ ({}_4\mathrm{C}_0)^2 +( {}_4\mathrm{C}_1)^2+ ({}_4\mathrm{C}_2)^2 +( {}_4\mathrm{C}_3)^2
+( {}_4\mathrm{C}_4)^2 ={}_{8}\mathrm{C}_4\]
が成立します。
これを一般化したものが⑨です。
【導き方2】
詳しい計算は省略しますが、⑨は次のように求めることも可能です。
等式
\begin{align*}
&(1+x)^{2n}= (1+x)^n(x+1)^n
\end{align*}
の両辺をそれぞれ二項展開します。
\[ (左辺)= {}_{2n}\mathrm{C}_0 + {}_{2n}\mathrm{C}_1x+ {}_{2n}\mathrm{C}_2x^2+ \cdots {}_{2n}\mathrm{C}_nx^n+\cdots +{}_{2n}\mathrm{C}_{2n}x^{2n}\]
\[ (右辺)=({}_{n}\mathrm{C}_0 + {}_{n}\mathrm{C}_1x+ {}_{n}\mathrm{C}_2x^2+ \cdots +{}_{n}\mathrm{C}_nx^n)\times
({}_{n}\mathrm{C}_0 x^n+ {}_{n}\mathrm{C}_1x^{n-1}+ {}_{n}\mathrm{C}_2x^{n-2}+ \cdots +{}_{n}\mathrm{C}_n) \]
ここで\(x^n\)の係数を比較するると、等式⑨が得られます。
まとめ
本記事では、場合の数の分野で登場する、二項係数\({}_n\mathrm{C}_r\)についての重要公式についてまとめました。
二項係数\( _n{\rm C}_r\)の最重要公式3つ
① \({}_n\mathrm{C}_r={}_n\mathrm{C}_{n-r} \)
② \(r {}_n\mathrm{C}_r=n {}_{n-1}\mathrm{C}_{r-1} \)
③ \({}_n\mathrm{C}_r={}_{n-1}\mathrm{C}_{r-1} +{}_{n-1}\mathrm{C}_r\)
二項係数\( _n{\rm C}_r\)の和の公式6つ
④ \({}_n\mathrm{C}_0 + {}_n\mathrm{C}_1+ {}_n\mathrm{C}_2 + {}_n\mathrm{C}_3+ \cdots + {}_n\mathrm{C}_n =2^n\)
⑤ \({}_n\mathrm{C}_0 – {}_n\mathrm{C}_1+ {}_n\mathrm{C}_2 – {}_n\mathrm{C}_3+ \cdots
+(-1)^n \cdot {}_n\mathrm{C}_n =0\)
⑥ \({}_n\mathrm{C}_1 +2 {}_n\mathrm{C}_2+3 {}_n\mathrm{C}_3 +4 {}_n\mathrm{C}_4+ \cdots +n\cdot {}_n\mathrm{C}_n=n\cdot 2^{n-1}\)
⑦ \({}_n\mathrm{C}_1 -2 {}_n\mathrm{C}_2+3 {}_n\mathrm{C}_3 -4 {}_n\mathrm{C}_4+ \cdots +(-1)^n n\cdot {}_n\mathrm{C}_n=0\)
⑧ \({}_k\mathrm{C}_0 + {}_{k+1}\mathrm{C}_1+ {}_{k+2}\mathrm{C}_2 + {}_{k+3}\mathrm{C}_3+ \cdots
+ {}_{k+r} \mathrm{C}_r ={}_{k+r+1} \mathrm{C} _r\)
⑨ \(({}_n\mathrm{C}_0)^2 +( {}_n\mathrm{C}_1)^2+ ({}_n\mathrm{C}_2)^2 +( {}_n\mathrm{C}_3)^2+ \cdots + ({}_n\mathrm{C}_n)^2 ={}_{2n}\mathrm{C}_n\)
二項係数の公式は数も多く混乱しやすいですが、導き方や意味を理解しておくことで、記憶に残しておきやすくなります。
本記事で紹介したように、公式を「意味で理解」する方法も参考にして、ぜひ公式をマスターしてください。
◆導き方を覚える
◆公式の意味を理解しておく
二項係数は今回ご紹介した以外にも様々な公式があり、とても興味深い分野です。式の導き方も様々です。自分なりのまとめノートを作ってみると、頭に残りやすくなるのでおすすめです。
最後に今回参考にした本をご紹介しておきます。
「マスター・オブ・場合の数(大学への数学)」は高度でややマニアックですが、とても面白い本です。
次の「解法の探究・確率(大学への数学)」もマスター・オブ・整数と同じように、内容はやや高度です。このほんは確率に関する内容についても盛り沢山で興味深い本でした。最後の発展編は難しいけれどワクワクしますよ。
今回は以上です。
最後までお読みいただき、ありうがとうございました。