数学

「フィンランドの算数・数学教育」塾も予備校もない国がPISAで好成績を残した理由

今回は、フィンランドの算数・数学教育事情についてご紹介します。

参考にしたのは、明石書店出版の「フィンランドの算数・数学教育」です。

塾も予備校もない、参考書もほとんどないフィンランドで、生徒の数学の力はどのように育まれているのでしょうか。

フィンランドの教育事情を知ることで、目新しい発見がたくさんありました!

実際にフィンランドの学校で扱われている問題例も抜粋させていただきましたので、是非最後までご覧ください。

フィンランドの教育が注目を浴びるようになったのはPISA(国際学習到達度調査)です。

2003年調査で、フィンランドは読解力1位、数学的リテラシー2位、科学的リテラシー1位、問題解決能力2位という結果でした。

さらに、国連の「世界幸福度ランキング」では2年連続トップになったこともあります。

そんなフィンランドの算数・数学教育について7年以上の年月をかけて調査し、まとめたのが本書です。

それでは、フィンランドの算数・数学教育について、特に「教育格差」「カリキュラム」「教科書」「授業」のそれぞれについて、私の気づきをご紹介していきます。

日本は、PISAのスコアは高いけれど、興味関心が低い

PISA(国際学習到達度調査)において、フィンランドが注目された時期がありましたが、スコアだけをみれば、日本も負けていません。

数学的リテラシ―に関しては2012年以降の調査ではフィンランドを上回る順位ですし、2015年と2018年に関してはOECD所属国に限定すれば、トップとなっています!

しかし、「数学への興味関心」の項目に関しては、日本は世界平均を大幅に下回っており、問題視されているのが現状です。

算数・数学への興味関心を引き出すヒントはないか?と思って本書を手に取りました。

フィンランドでは教育格差がそれほどない

日本では、高校や大学で、学力面での大きな学校間格差が生じています。学校間格差が生じてしまっている原因は日本の入試制度にあるのは明らかでしょう。

一方、フィンランドでは、それほど学校間の格差はあまり生じていないようです。主な理由は以下の2点です。

フィンランドでは地元の学校に進学する生徒が多いから

フィンランドの子どもたちは、義務教育が終了すると高等学校または職業学校に進みます。ここでは、日本のような入学試験がなく、主に中学校での成績によって行ける学校が決まる仕組みがあるようです。

そのような仕組みはあるものの、多くの生徒は地元の学校へ進学するようです。

これが、学校間の格差が生じにくい理由の一つです。

学力の低い生徒へのサポート体制が充実しているから

フィンランドで学校間格差が生じにくもう一つの理由に、「学力が低い生徒のサポート体制が充実していることあげられます」が挙げられます。

学力的に不安のある生徒がいる場合、その生徒は別の教室で授業を受けることができます。

授業は別の教師が担当し、予算も特別に配当されるようです。

フィンランドの数学カリキュラム

フィンランドの算数・数学のカリキュラムをみてみると、日本とそれほど大きな違いはありませんでした。

特長的だったのは高校数学の科目名です。

フィンランドの高校では数学が必修で、生徒は「長い数学」と「短い数学」の2種類の科目からどちらかを選択します。

「長い数学」・・・日本の「理系数学」に相当

「短い数学」・・・日本の「文系数学」に相当

ただし、「短い数学」は日本の文系数学とはやや異なり、日常事象と結び付けた内容を多く取り入れているのが特徴です。

例えば「短い数学」では「数学的モデル」という科目が設定されており、この科目は、数学を活用することを重視した構成になっています。

理系選択率は日本と同じ程度

フィンランドの高校への進学率は約50%。それ以外の生徒は主に職業学校へ行きます。

高校と職業学校合わせた生徒のうち、17%が「長い数学」を、33%が「短い数学」を選択します。

このデータから「理系」選択率は日本とほぼ同程度と言えそうです。

フィンランドの算数・数学の教科書

それでは、フィンランドにおける算数・数学の教科書の特徴をご紹介していきます。

算数の教科書の特徴

①「説明→例→練習」の流れ
・日本の算数教科書の場合は、導入において、学習する概念や性質を子どもに予想させたり発見させたりするような活動場面がありますが、そのような記述は見られません。

②1つの方法のみが示されている
日本では、三角形の面積を何通りもの仕方で考える場面がありますが、フィンランドでは、はじめに1通りの求め方を説明し、すぐに公式が提示されます。

公式がまとめられる過程よりも、公式を正しく活用することに重点が置かれているようです。

③練習問題は1つのテーマに関連したもので構成されている

④補充問題・宿題問題が巻末に準備されている
フィンランドでは、書店で問題集や参考書を見かけることがほとんどないそうですので、驚きです。その代わり、日本の「問題集」の機能が教科書にすべて含まれています。

⑤「頭の体操」のページが設けられている

⑥に日常事象と結び付けた問題が多い

⑦長い文章を読む問題が多い

⑧全体としてページ数が多い
補充問題、宿題問題、頭の体操ページなどがあるため、ページ数は多くなります。

中学校の教科書の特徴

ここでは、印象に残った部分のみご紹介します。詳細は本書をお読みください。

〇説明の記述があっさりしている

〇すぐに一般化して定理を紹介

〇日常事象と結びつけた問題が多い

(例)円の面積の例題はドラムセットの写真が示され、バスドラムの膜の直径が45.7cmから面積を求める問題。

(例)(地球の模式図が示され)ヘルシンキが北緯60°、東経25°、地球の半径を6367kmとするとき、赤道からヘルシンキまでの距離を求める。

〇パズル形式の問題がある。

〇復習のページが設けてある。
重複するような内容はできるだけ避ける日本の教科書の編集方針とは異なっています。

〇教科書のページ数は多く、問題の量が多い。

フィンランドでは、小学校、中学校段階では、数学的な証明は必要ないと考えられています。証明よりもむしろ、日常との関連を重視した教科書の構成になっているようです。

高校の教科書にあった例題

高校の教科書紹介の章に、日本の教科書にはあまりみられない、日常事象に関連した問題が多くみられました。その一例を抜粋させていただきます。

ある森林は、2万㎥の木材の生産量が見込まれている。木は、毎年4.5%だけ体積が増加すると推定されている。その森林の所有者は、毎年1100㎥分の木材を10年間伐採することとした。10年後に、木材の生産量はどれだけになるであろうか。また、n年後の生産量を表す式をつくれ。

この問題は「短い数学」の「数学的モデル」第4章「数列を用いた数学」にあった問題です。

ある橋の構造は、2本の放物線の間に、10m間隔で、垂直な7本の支柱と、6本の斜めの支柱うが配置差sれている。
(a) 垂直な支柱の長さの合計はどれほどか。
(b) 垂直な支柱と斜めの支柱の長さの合計はどれほどか。
※図は省略

こちらは「長い数学」の「解析幾何」の第4章「2次曲線」の練習問題です。現実場面を解決する問題設定で、生徒は興味・関心を持って取り組むことができそうですね。

全体として、教科書のページ数が多いようです。「長い数学」の必修科目の教科書は全部で10冊。しかも、日本のようなA5のコンパクトサイズではなく、B5(ノートサイズ)のやや厚めの教科書の写真が載っていました。

説明の記述が日本より丁寧で、例が豊富に記述されているため、冊数やページ数が多くなっているようです。

フィンランドの算数・数学の授業

どこの国でも同じだと思いますが、学校や先生によって、様々な授業の進め方があるようです。

私が気になったのは次の3点です。

①生徒が自分自身で答え合わせをする

教科書の問題を個人で解決したら、前に置いてある教師用指導書の正解が書かれたページをみて、生徒が自分で答え合わせをするという場面が紹介されていました。

「自分で数学を学習することに責任を持つことを学ぶと」という国家カリキュラムの目標に向けて、指導が行われているようです。

②生徒はごく自然に電卓を使用している

フィンランドでは電卓を用いて近似値を求める場面が多くあります。授業者から指示がなくても、生徒はごく自然に関数電卓を使っているようです。

日本では、数学の授業で電卓を利用して近似値を求める活動はあまり行われていません。フィンランドのように、日常事象に関連した問題が多いと、必然的に電卓が必要になってきますね。

③実物投影機が日常的に活用されている

実物投影機を使って生徒のノートにある解答をプロジェクタで投影して説明している場面が何度かありました。本書の出版が2013年。7年かけて調査が行われていたと考えると、かなり前からプロジェクタを積極的に利用して、授業を行っていたことがうかがえます。

フィンランドで多くみられた「日常に関連する問題例」

最後に、日常事象に関連した問題の例をいくつか抜粋させていただきます。

日本の算数・数学の授業でもこのような例をぜひ取り入れてもらえたらなと感じました。

川岸に、斜面の角度9°の草原がある。この川は春になると高さ2.5mだけ増水する。増水したとき、何mの草原が水の中に埋もれてしまうか。(中2)

 

KasperさんとJuhaさんは2人合わせて11時間アルバイトをした。Kasperさんは時給6ユーロ、Juhaさんは時給7ユーロで、2人合わせて74ユーロもらった。(中3)
a)Kasperさんは何時間働いたか
b)2人はいくらずつもらったか。

 

学校の駐車場に、4輪車と2輪車が合わせて39台ある。また、タイヤの数は合計で124ある。4輪車と2輪車はそれぞれ何台ずつあるか。(中3)

 

交通事故があり、警察が調べたところ、60mのブレーキ痕があった。同じ状況の道路で、時速50kmのときは28mのブレーキ痕が付くことが分かっている。交通事故を起こした車が出していた速度を求めよ。ただし、車の停止距離は、速度の2乗に比例する。(高1)

 

ランプから4.3m離れたところの照度は、60ルクスである。字を書くためには400ルクス必要であるが、このランプをどのくらいの距離に置けばよいか。ただし、照度は、高原からの距離の2乗に比例する。(高1)

 

ゴムひもの一方の端を原点に固定し、他方の端は$$x^2+y^2-4x-12=0$$上を動かすとき、ゴムひもの中点はどのような線上を動くか。(高1)

※軌跡の問題もこのように工夫されています!

 

フランス人ルイ・ブライユは、1825年に、隆起した文字を指で読み取る点字を開発した。点字の仕組みには、6個の固定された場所に点を打つことによって、それぞれの文字を設定する。全部で何通りの異なる文字を表すことができるか。

※図は省略。「短い数学」の入試問題です

まとめ

今回は、フィンランドの算数・数学教育について紹介させていただきました。

数学教育にかかわる立場の者として、本書からヒントを得た以下のことを実践していきたいと思いました。

・日常事象に関連した問題を取り入れる機会を増やす

・プロジェクタの活用機会を増やす

・児童・生徒が自分自身で学習を進められるような方策を考える

フィンランドの教育を知ることで、改めて日本の教育の良さも認識できました。フィンランドに限らず、世界中の教育事情をみんなで共有し、日本の教育がより良いものになっていくことを願っています。

「フィンランドの算数・数学教育」おすすめです!

こちらの記事もおすすめ!