今回は数学検定1級の「確率・統計」の対策方法についてご紹介していきます。
数学検定の最高峰「数検1級」
そんな数検1級のカギを握っている分野は「確率・統計」だと思っています。
私自身、1級受検の際、統計分野で完答することができ、結果として1級合格を手に入れることができました↓
【第344回】数学検定1級の個別成績票を公開「合格できた要因も分析」
【数学検定1級】第344回検定の合否をWebで確認!チャレンジ三度目の結果は?
ちなみに本番では、統計の問題を見た瞬間、心の中でガッツポーズをしていました!
1級受検奮闘記はこちら↓
【数学検定】第344回「数学検定1級」の受検報告〔2次検定編〕
今回は、1級の確率統計対策【完全版】として、私の経験を踏まえた勉強法をご紹介していきます。
本記事の要点は以下の通りです。
●ステップ1 まずは過去問分析
●ステップ2 やさしいテキストで基礎力養成
●ステップ3 標準的なテキストで演習(カット可)
●ステップ4 過去問演習
それでは、
なぜ確率・統計に力を入れるべきなのか?
確率・統計の対策はどのように進めていくべきか?
について、一緒に考えていきましょう!
1級の出題範囲は多岐にわたる
どんな検定でも難しさはあると思いますが、数学検定1級の壁も結構高いと感じています。
その理由の1つは「出題範囲」が広いことが挙げられます。
実際に私も、1級の過去問を見た時、何を勉強すればよいのか分からず困惑しました。
日本数学検定協会のWebページを見てみると、1級の出題範囲は「大学・一般程度」となっています。詳細は以下の通りです。
【解析】 微分法、積分法、基本的な微分方程式、多変数関数(偏微分・重積分)、基本的な複素解析
【線形代数】 線形方程式、行列、行列式、線形変換、線形空間、計量線形空間、曲線と曲面、線形計画法、二次形式、固有値、多項式、代数方程式、初等整数論
【確率統計】 確率、確率分布、回帰分析、相関係数
【コンピュータ】 数値解析、アルゴリズムの基礎
【その他】 自然科学への数学の応用 など
広範囲にわたり勉強しなければならないと思うと、心が折れそうになります。
確率統計は断然おすすめ!
これだけ、広範囲にわたる分野を攻略するのは、骨が折れます。
私の場合は、仕事や子育てをしながらの1級チャレンジでしたので、そこまで時間もかけられません。
そこで、「2次検定」に関して、以下のような戦略をたてることにしました。
数学検定1級合格のための3つの戦略
①必須問題の「微分積分」と「線形代数」で8割を目指す
②選択問題は「統計」を選択し8割以上目指す。できれば満点。
③残りの1問は部分点狙い
微積と線形代数は大学数学の要となる重要な分野ですので、力を入れるのは当然です。
微積と線形代数以外では、私の場合、以下の理由もあって「確率統計」に力を入れることにしました。結論から言うと「確率統計」はおすすめです。
2次での選択問題は「統計」を選ぶことを強くおすすめします!
確率統計に力を入れるべき3つの理由
① 1次検定で必ず1題出題される
② 2次検定の出題パターンは限られている
③ それほど難しい問題は出題されていない
それでは、実際の対策法をみていきましょう。
ステップ1 まずは過去問を分析
どんな検定や試験でも「過去問分析」が最重要事項です。
私の場合、まず初めに日本数学検定協会から出版されている「数学検定1級 完全解説問題集 発見」を使って分析をしました。
詳しくは以下の記事も参考にしてみてください。
こちらの記事を読むと、統計の出題パターンが見えてきます↓
それでは、過去問分析した結果を簡単にご紹介します。
1次検定の確率統計は簡単!
主に出題される分野は以下の通りです。平均や分散を求める問題が圧倒的に多かったです。
易しめの問題が多いです。
・平均、分散、共分散(離散型・連続型)
・二項分布(ベルヌーイ試行)
・相関係数
・回帰直線
・ポアソン分布
・正規分布
ベルヌーイ試行と二項分布について(参考)
ベルヌーイ試行とは・・・2種類の事象が起こる試行のこと
(例)コイン投げなどの試行
二項分布とは・・・ベルヌーイ試行をn回行ったとき、成功する回数の分布
(例1)1枚のコインを10回繰り返したとき,表が出る回数の分布
(例2)1個のさいころを繰り返し10回投げたとき,2以下の目が出る回数の分布
2次検定の統計もパターン化されている!
2次検定では、選択問題(問題4)で統計が出題されます。
記述式の問題ですが、ある程度対策をしておけば完答できます。
出題される問題はほぼ以下の3パターンです。
・回帰直線(最小二乗法の利用)
・推定
・検定
それほど難しい問題は出題されていません。絶対にねらい目です!
ステップ2 やさしいテキストで基礎固め
まずは、やさしめのテキストを用いて基礎固めをしましょう。
次の本はおすすめで、これだけで「確率統計」対策は半分以上終了です!
やさしくわかる統計学のための数学
統計学を初めてを勉強する方や、確率統計の基礎固めをするのに最適な本が、「やさしくわかる統計学のための数学」です。
2019年5月に出版された本で、確率統計の基礎だけでなく、数学検定1級2次の土台を学ぶことができます。
2次検定で出題されたことがある「適合度検定」の問題なども掲載されていて、非常に有益です。
しかも、スッキリとした構成で、私は本書のお陰で頭の中が整理されました。
詳しい内容は以下の記事を参考にしてみてください。
【数学検定1級】勉強法とおすすめ参考書・問題集「やさしくわかる統計学のための数学」
本書のサブタイトルが「中学レベルからはじめる!」となっていて、「確率、分布、偏差、推定、検定、相関、回帰」などの統計に使用するツールの「数学」が丁寧に解説されています。
全部で8章からなる構成です。
<使い方>
私の場合は1章~3章と8章は流し読み。4章~7章の推定と検定はじっくりと取り組みました。ただし、私は後述する「マセマの統計学」を終えた後に本書に取り掛かったので、初めて統計に取り組む場合は、全部の章をきちんと学習した方がいいです。
2次検定で頻出の4章~8章は繰り返し練習し、マスターしておきましょう。
なお、この本に出てくる「統計量」は面倒でもすべて覚えておいた方が安心です。
マセマシリーズキャンパスゼミ「統計学」
もう一冊のおすすめは、マセマシリーズ「スバラシク実力がつくと評判の統計学」で、私のバイブル的存在の本です。
最初にご紹介した、「やさしくわかる統計学のための数学」だけでも、基礎は固まりますが、もう一冊くらい基礎本を読むことで、統計学の多様な見方を学べます。記憶にも残りやすくなりますよ。
このマセマシリーズは、分かりやすいく丁寧な解説が売りのテキストで、著者の馬場敬之先生が隣で語り掛けてくれるように講義が進んでいきます。
式変形等も詳しい解説があり、基礎から応用まで対応可能です。
ただし、証明は難しい部分もあります。本書は使い方を間違えると挫折する可能性もありますので注意しましょう!実際に私自身も挫折しました。
「マセマの統計学」の中で、どこが出題されやすいか、どこを後回しにするか、については以下の記事に詳しく書きましたので参考にしてください。↓
【数検1級】マセマのキャンパスゼミ「統計学」の効果的な使い方【初学者は挫折します】
本書を読む際に以下の微積知識が必要になりますので注意しましょう。
- 偏微分
- マクローリン展開
- 重積分、無限積分
- ヤコビアン(変数変換)
- ガンマ関数・ベータ関数
ただし、難しい微積の知識は、実際の統計問題を解く際には必要なく、あくまでも証明で使うだけですのでご安心ください。
<使い方>
講義1と講義2はすべての基本ですのできちんと身につけましょう。カット可能な内容もありますので緩急をつけながら進めていきます。
講義6のメインが「回帰直線」、講義7が「推定」、講義8が「検定」です。これらの分野が最重要分野となります。ここだけは、何度も繰り返しましょう。
私はこの3分野を3回繰り返しました。
章末のまとめをうまく利用して、頭の中を整理していくことが大切です。
講義2の後半から講義5まではやや理解しにくく、やっかいな証明もいくつかあります。難しい部分は「後回し!」
これも重要な勉強法です。
私は次の問題集「演習 統計学キャンパスゼミ」も購入しましたが、時間がとれず3~4問程度しか手をつけられませんでした。問題の内容は「統計学キャンパスゼミ」とほぼ同じですので、この演習編はやらなくてもいいと思います。類題をたくさん解きたい場合は購入を検討してみてください。
ステップ3 標準レベルのテキストで実践力を養成
「やさしくわかる」と「マセマ」で基礎が固まったら、あとは過去問演習だけでも大丈夫です。
ぶっちゃけ、このステップ2は飛ばしてもかまいません。
統計の力をもっと高めたいという場合にこのステップを踏みます。
私の場合は以下のテキストを部分的に勉強しました。他にもいろいろな問題集がありますので、探してみてください。
徹底攻略 確率統計
B5判で260ページ以上のボリュームのある本です。
本書では、確率統計学を一通り学ぶことができます。基礎から解説されていますが、数式の表現等がやや難しく感じました。
本書の特徴
●具体例が豊富!
●大学で「確率・統計」を学ぶ学生を想定
●要所要所で、「ガイド」の節があり、全体を俯瞰できる。
●難易度の目安がある【Level 0】から【Level 3】
本書の特徴はなんといっても、「具体例が豊富」であることです。
「いま説明したことが、どこでどう使われているのか」という点にこだわって、たくさんのコメントが入れられています。
また、ときどき登場する「コラム」も興味深いですよ。
<使い方>
部分的に使用しましょう。
全部通しでやろうとすると、相当な時間が必要となります。
私は、以下のように、主に5章の推定と6章の検定を使用しました。
・1章「確率」を1回通しで勉強
・2章~5章はカット
・5章(推定)と6章(検定)はしっかり取り組んだ
・相関係数の区間推定は公式あり
・欄外にあるコメントが役に立った!
ただし、「私の計算」と「答え」が合わない部分が何か所かありました。単に計算ミスかもしれませんが。
また、母比率の区間推定は2次関数の最大値を求める問題に帰着させて解いていますので注意しましょう。
相関係数の区間推定や検定はしっかりとまとまっているので、本書で公式を確認し、過去問で定着させました。適合度検定や独立性の検定も本書が役にちましたが、公式の表現がやや難しく感じました。
一見難しそうなテキストですが、問題自体はそれほど簡単に解けるものばかりです。
ただし、途中の説明や計算は短めです。私の場合は、問題の部分をコピーして、ノートに貼り、途中の計算をしっかりと書きながら問題を解いていきました。
ステップ4 過去問演習
基礎固めが一通り終わったら、すぐに過去問に取り掛かります。
実は数学検定1級の統計は「ほぼ過去問からしか出題されない」といっても過言ではありません。ですから、過去問は手を抜かずにしっかりとできるようになるまで繰り返しましょう。
私は以下のテキストと過去受検した検定問題を用いて過去問演習をしました。
- 「完全解説問題集 発見」7回分
- 「合格ナビ!1級1次」 巻末の過去問 2冊分
- 検定問題「第336回」「第339回」
- 日本数学検定協会のページに掲載されている問題
数学検定1級「完全解説問題集」発見の使い方
統計の問題だけ通して勉強すると頭に入りやすくなります。
「完全解説問題集」発見の場合、「問題4(統計)」だけを通しで、何回も繰り返します。
特に2次検定についてはこのやり方が良いと思います。全体的な傾向もよく見えてきますよ。
その際、ステップ1で学習した分野のうち、どこを扱っているのかを確認しながら進めると効率がいいです。
ただし、この問題集の第2回2次の「問題4」だけはやや傾向が違いますので注意しましょう。
「合格ナビ!数学検定1級1次の過去問」の使い方
「合格ナビ!1級1次」の巻末には2次検定の問題もあるのでありがたいです。
この「合格ナビ!」の過去問は文字が小さいので、拡大コピーしてノートに貼り、詳しい過程を書きながら勉強するとよいでしょう。
本書の「解析・確率統計」編には2016年の過去問が、「線形代数」編には2017年の過去問が掲載されています。
比較的最近の過去問ですので、是非取り組んでおきましょう。
この2冊については、過去問が掲載されているという理由だけで「買い」ですよ!
過去問はできるだけ多く集めよう
過去問はできるだけ多く集めましょう。特に、確率統計に関してはパターンが少ないので、過去問を何年分か解くだけでも即得点に結びつきます。
私自身、「発見」や「合格ナビ!」以外にも、過去に受検した問題が役に立ちました。これらもコピーしてノートに貼って何度か繰り返しました。
もちろんWeb上にある問題にも取り組みましょう。
繰り返しになりますが、
過去問はできるだけたくさん手に入れて、何度も繰り返しことが重要です。
過去問演習は絶対必要なステップですよ!
ここまでやれば、統計での完答も可能になってきます!
推定と検定はどこまで勉強する?
区間推定と仮説検定は1級の2次で頻出です。仮説検定などは、どこまで統計量を覚えなければならないか悩むところです。
私の経験上、最低限、以下の内容は覚えておいた方がよいです。
区間推定
- 母比率の推定
- 母平均の推定(母分散既知)
- 母平均の推定(母分散未知)
- 母分散の推定(母平均既知)
- 母分散の推定(母平均未知)
- 母相関係数の推定
仮説検定
- 母比率の検定
- 母平均の検定(母分散が既知)
- 母平均の検定(母分散が未知)
- 母分散の検定(母平均が既知)
- 母分散の検定(母分散が未知)
- 母平均の差の検定(母分散が既知)
- 母平均の差の検定(母分散が未知)
- 母分散の比の検定(等分散の検定)
- 適合度検定
- 独立性の検定
細かく羅列したので、大変そうに感じるかもしれませんが、「推定での確率変数」と「検定での統計量」は名称が変わっただけなので、まとめて覚えてしまえばそんなに大変ではありません。
息抜きとして「おすすめの統計本」
最後に、息抜きとして私が読んだ「統計本」をご紹介します。
マンガでわかる統計学(大上丈彦)
「統計学ってなに?」という素朴な疑問に答えてくれる入門書です。
全部マンガではなく、2~3ページごとにマンガが1ページある構成になっています。
マンガはカラーで、しかも少ないコマで要点がまとめられているので読みやすいです。
パラパラとめくりながら、楽しく読める本です。
悩めるみんなの統計学入門(中西達夫)
統計学で必ず押さえておきたい事項を6つのキーワードに絞ってやさしく丁寧に解説された本です。
6つのキーワードは「分布」「分散」「相関」「標本」「カイ二乗検定」「t検定」。
主人公の少女たちが、身近な話題を題材に統計学を学んでいく構成になっています。
面積や距離を用いた「分散」の説明は興味深かったです。
意味がわかる統計学(石井俊全)
大人のための数学教室「和」講師で、数多くの数学関連書を執筆している石井先生の本。
他の本にはない、変わった例えを用いた解説が特徴的。これは好き嫌いが激しそうな本です。
読み物ではなく、完全な数学書です。私は、部分的に流し読みしました。
完全独習統計学入門(小島寛之)
この本も1級受検前を決意する前に読みました。
本書は「これ以上削ったら、統計学にならない」という、最小限の道具で書かれた超入門書。確率の知識はほとんど使わず、微分積分もシグマも全く使わないところがすごい!
私自身は数学にかかわってきた人間なので、数式があったほうが好きですが、とても分かりやすい本だと思います。
統計を勉強する際の注意点
統計については、まず全体像をつかむことが必要です。私は、簡単にノートにまとめる作業をしてみました。
全体的な景色が見えたところで、今度は細部をつめていきます。
回帰直線・推定・検定が頻出分野ですので、解答の方法をしっかりとマスターします。推定と検定の違いは人に説明できるくらいのレベルにまで上げる必要があります。
問題を解く際は、面倒でも電卓を使って実際に計算してみましょう。その方が定着が早いです。電卓の使い方に慣れておくことも大切です。
覚えるべき統計量もわりと量がありますが、少しずつでいいので頑張って覚えましょう。ここは踏ん張りどころです。
まとめ
数学検定1級の「確率・統計」対策についてご紹介してきました。
私自身、1級受検前は統計について、ほとんど勉強してきませんでした。でも、約1年程度で、統計を得意分野にすることができました。
今では、統計って面白い!と思っている自分がいるのが驚きです。
2次検定ではどの問題を選択するかは悩むところです。それぞれ得意・不得意や戦略もあるでしょう。ただ、間違いなく言えるのは、1級の「統計」は得点しやすい分野だということです。
「統計」に苦手意識を持っている方も、この記事でご紹介した本を毎日少しずつでいいので、読み進めてみてください。じわじわと「統計」の考え方が身についていくはずです。
以上で、数学検定1級「確率統計」対策は終了です。
ぜひ「統計」独特の考え方に慣れ、「統計」を武器にして1級合格を目指しましょう!